アーガスC44

 アーガスC44はいいカメラだと思っている。C3とは比較にならない。それなのにC44は1957〜58年のわずか2年で生産が終了したらしい。C3はC44が生産終了したあとも10年以上販売されていた。どうして、アメリカの人たちはC44にブレイクしなかったのであろうか?このあたりのセンスは理解に苦しむ。

 C3とC44ではそもそもの精密感が全然別物である。C3をバラしてみるとわかるのだが、C3は精密機械ではない。使われているネジはとてもカメラ用とは思えない巨大なネジである。分解に精密ドライバーは必要なかった。それに比べてC44の精密感はなかなかのものである。アルミダイキャストのボディは表面の仕上げも上質で、全身ベークライトのC3とは質感が全く違う。距離計は二重像合致式一眼距離計である。バルナックライカより進歩しているではないか。レンズも一応バヨネット式で交換できる。C44は明らかにライカM3をアーガスなりに研究して作られたカメラだと思う。さらにストロボ同調はホットシューによって行うところも斬新である。1950年代にホットシューを採用したカメラはほとんどない。このあたりにアーガスの気合いを感じてしまう。

 たしかにC44は良いカメラなのだが、やはりアメリカ人が作ったカメラなのでところどころ気合いが抜けてくるような場所もある。シャッター速度はC3と同じ1/300秒まで。1950年代のレンズ交換可能なレンジファインダー機としては物足りない。何もこんなところをC3に合わせる必要はない。C44のシャッターは自社製のビハインドシャッターなのだが、このあたりに技術力が出てしまったのかもしれない。あるいはお金をケチったか、もしかするとシャッターはC3と同じユニットかもしれない。フィルムカウンターも相変わらず手動セットだが、巻き上げロックはシャッターリリースと同時に自動的に解除されるようになった。C3からの大きな進歩である。

 C44の音については以前も書いた。ビハインドシャッターなのでレンズシャッターのカメラと比較してはいけないが、それににしても大きな作動音である。フォーカルプレーンシャッターにミラーのついた並の一眼レフよりはるかかに自己主張の強い音がする。アーガスはシャッターの音に気を使わなかったのだろうか。きっと使わなかったのだと思う。カメラに限らずアメリカ製の物は概して音がやかましい。例えば掃除機。20年以上前から日本の掃除機はそんなにうるさくなくなったが、アメリカの掃除機はとてつもなく大きな音を出してくれる。掃除のおばさんがオフィス地区に来ると仕事にならないくらいやかましい。換気扇もうるさい。換気扇を回すと食卓で会話ができない。食器洗浄機。これを台所で使っているとリビングのテレビの音が聞き取れない。洗濯機、乾燥機どれもやかましい。要はデリカシーの問題だろう。そんな人たちが苦労をして音の静かなカメラにこだわるとは思えない。

 これはC44の欠点というより特徴としてとらえた方が良さそうだ。C44のシャッターを押すと「写真を撮ったぞ〜」と言う達成感がある。レンズシャッターの頼りない音では得られない達成感である。C44は静粛さを要求される場所では使わなければいいのだ。これぞアメリカンカメラのアメリカンな使い方である。






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