アーガスC3 マッチマチック

 1939年に発売されたアーガスC3の改良型がこのマッチマチックタイプである。1958年から1966年まで販売された。いかに人気機種であったアーガスC3でも19年間も生産され続ければ、当然改良しなければならない点がでてくる。1939年当時なら仕方がなかった仕様も1958年まで生産を続けたのなら、当然改善するべきである。だからこの時点で改良型を出したのはごく自然なことであり、遅きに失した感もあったくらいだ。

 1958年である。日本ではクイックリターンミラー、自動絞り、ペンタプリズム付きの35mm一眼レフが発売されていた。ライカM3が発売されレンジファインダーカメラも洗練されていた時期である。C3の特徴であった非セルフコッキングや巻き上げロック手動解除あたりを改善するべきだっただろう。しかし、アーガスはこれらの大問題には一切手を着けることはなかった。アーガスはこの期に及んで何をしたか?
 まず、アクセサリーシューに取り付ける露出計を作った。この露出計はC3専用のセレン式で、シャッター速度に該当する数字を合わせると、メーターが適正露出を得るための絞り値を示すようになっていた。もちろん非連動露出計である。基本的には改良されたのはそれだけである。なんと本体にはほとんど手を着けていないのだ。アーガスはよほどあの本体に自信があったのだろうか?
 正確に言うと本体も少しだけいじっている。でもこれは改良ではなくて改悪だと思う。シャッターダイヤルからシャッター速度の表示が消えて4から8までの数字になったのである。この数字は露出計の数字に対応する。つまり、本体でシャッター速度を6に合わせてから露出計を6に合わせると、適正な絞りが数字で表示されるのである。しかし6が何分の一秒なのかさっぱりわからない。たぶん1/50秒だと思うが確証はない。露出計にシャッター速度そのものを書けばそれで済む話である。そうすれば露出計は以前のC3にも使えるようになるし、マッチマチックを単体で使うこともか出来るだろう。マッチマチックはシャッター速度の表示がないので露出計がなければものすごく使いにくい。いや、露出計があったってシャッター速度がわからないのは誉められた話ではない。そして露出計はセレン光電池である。おそらく半数近くが劣化して使い物にならなくなっていることだろう。どうしてこんな改良を施したのか、理解不能である。しかし曲がりなりにも8年間の販売され続けたのだから、きっとある程度は売れたのだろう。C3だから写りは悪くないと思う。

 こういう工業製品は国民性を如実に物語ると思う。たしかにアーガスC3は安い。しかし写真を撮るための最低限の機能は備えている。そして値段の割にはよく写る。これはアメリカ人が工業製品に求めていること、そのものである。アメリカでものを売ろうと思ったら安いのが一番である。そして不要な機能は付けない。付加機能が付いて高いものより、シンプルで安いものが受ける。明らかにC3マッチマチックより優れているC44はわずか2年で市場から消えた。やはり値段が高かったのだろう。
 日本人はどうだろうか?基本的に日本人は付加価値が高いものを好むと言われている。だから日本向けの日本製品は機能てんこ盛りである。たぶん企業のマーケットリサーチの結果がそう示したのだからきっとそうなのだろう。ただ、私としてはもう少し選択肢を広げても良いのではないかと思う。私なら機能的にシンプルでも安く買いたいことはある。いらないパノラマ機能にお金を払いたくはない。私はその辺のアメリカ人のシンプル指向がとっても好きである。

 でも、アーガスC3マッチマチックの露出計はやっぱり評価できない。





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