PERFEX55

 アメリカ製にしては非常に良くできたカメラである。1940年代前半のカメラらしい。本体はほとんど金属製。フォーカルプレーンシャッターが付いたレンズ交換のできるレンジファインダーカメラである。マウントはL39と同じ口径だがゾルキーIに付いていた偽エルマーは装着できなかった。考えてみればレンズ自体にヘリコイドが付いていないから、偽エルマーが付いてもまともには撮影できないであろう。

 デザインを見ていただくとわかるが、ライカ同様の丸みを持ったデザインにコンタックス並の長い基長線を持った距離計が付いている。これならかなりの望遠レンズでもいけるかもしれない。シャッター速度は1秒から1/1250秒まで。これはすごい。明らかにコンタックスを意識していると思われるが、こんな高性能なカメラを作ることができたのだからアメリカ恐るべしである。しかしこのカメラは中古市場でもほとんど見かけることはない。あればあったで安いのだがほとんど見かけない。それほど売

れなかったようだ。どうやらアメリカ人どもにはこんなすばらしいカメラより、安い簡単なアーガスC3の方が良かったのだろう。

 アメリカ人の面倒くさいもの嫌いは見ていて悲しくなるほどである。私はアメリカに来て以来疑問に思っていたことがふたつあった。ひとつ目はファーストフードのドリンク。アメリカのファーストフードではドリンクはおかわりOKがデフォールトである。しかしおかわりOKのくせに、L、M、Sの3サイズが準備されていて、しかも値段が違う。私なら一番安いSを買って何回でもおかわりする(ちなみにこの場合のSは日本のMより大きい)。しかし、多くのアメリカ人は超ウルトラキングコングサイズのLを注文する。ひょっとして頭が悪いのではないか。しばらくたってから仲の良いアメリカ人に質問してみた。意外な質問だったようでしばらく考えたあと彼はこう言った「何回もおかわりに行くのは面倒くさい。」
 もう一つの疑問がメールinリベートフリーである。どこかでも書いたが、アメリカの電気屋ではよくメールinリベートフリーの目玉商品が売られている。$50のものを買ってレシートとバーコードをメーカーの窓口に送れば$50の小切手が送られてくる、夢のようなシステムである。私はこのシステムを思う存分利用したが、しかしメーカーはそれで良いのだろうか?これも友人に聞いてみた。彼曰く「確かに俺もよくメールinリベートものを買うが、メーカーに送ったことは一度もない。すぐにお金をくれるのならやってもいいが、3ヶ月近く待たされるのは我慢できない。そのためにわざわざ申込用紙に必要事項を記入して封筒に住所を書いて投函するのは面倒くさい。」これで経済が成り立っているのだから驚きである。日本でこれをやったら間違いなくメーカーはつぶれるだろう。
 そういえばアメリカにはやたらと、応募者全員プレゼントものが多い。富士フィルムからはフォルクスワーゲンのミニカー4台とパンダのぬいぐるみをもらった。ケロッグからは大きなトレーラーのミニカーをもらった。日本なら「毎週毎週1000名様」パターンであろう。
 国による違いは何もアメリカと日本だけの問題ではない。かなり昔に読んだ話であるが日本の化粧品メーカーが中国に進出して、とある百貨店で「先着○○○名様に試供品を無料で配布」する事にして事前に告知した。日本なら試供品くらいで別に混乱は起きないだろう。しかし中国では開店と同時に客が殺到、売場はパニック状態、一人1個の試供品を大量に持っていこうとする客もいたが、店員は混乱を収拾できずあっという間に売り切れ。あとから来た客が文句を言って全然引かず、結局化粧品メーカーがお詫びをして整理券を配って後日試供品を再配布したそうである。

 さて、このPERFEX55には、とってもユニークな機能が付いている。なんと露出計内蔵なのだ。1940年代前半と言えば、まだ露出計内蔵が一般的とは言えない時代である。しかしこのデザインのどこに露出計が付いているのであろう?距離計窓の間にある長細い窓が露出計なのである。この窓はセルロイドの板を通して後ろからのぞけるようになっている。窓を覗くと右に行くに従って色の濃くなるセルロイド16枚が張り付けられており、さらにそれぞれの板にアルファベットが書かれている。このセルロイドをのぞくと、ある濃さでアルファベットが読めなくなる。そのアルファベットが露出を示しているのだ。アイデアとしてはすばらしい。視力の善し悪しによって露出が変わってしまう可能性はあるが、当然電池は使っていない、地球に優しい露出計である。セレン光電池のように経年変化を気にする必要もない。
 早速この露出計を使って写真を取り始めたのだがどうもおかしい。明らかに露出がオーバーである。中村式簡易露出決定法の方が明らかに正確である。と言うわけで途中でこの露出計を使うのは止めにしてしまった。問題はASA400のフィルムを使ったことにありそうだ。1940年代にASA400のフィルムなんて存在しない。ASA25とか64のフィルムだったらもっといい露出がでたのではないかと思う。この露出計でASA400を使った場合でも暗いところなら何となくいい値がでるのでそんな気がしたのである。

 このカメラはアメリカらしくないと言っていいほどいいカメラである。しかしそれゆえに長くは続かなかったようである。






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