キヤノン NewFTb

 FTbNは大ヒットしたFTbのマイナーチェンジ機である。基本性能に大きな違いはないが、細かい使い勝手は明らかに向上している。

 一番大きな改善事項はファインダーの表示である。FTbのファインダーは単純な追針式マニュアルであったが、FTbNになると設定したシャッター速度がファインダー内に表示されるようになった。これは同時期の他メーカーには見られない優れた点であり、性能上の差別化にもなったであろう。ファインダー内でシャッター速度が確認できるのは実際問題非常に便利でありがたい。特に私はファインダー情報が多い方が好きなタイプなので、積極的にFTbNを持ち出すひとつの理由にもなっている。キヤノンA−1以降、デジタル表示が当たり前になり、ファインダー内でシャッター速度と絞りが確認できるのはごく当たり前のこととなったが、それ以前のカメラではなかなか実現できなかった。マニュアルカメラの場合はメーターだけと言うのが当たり前、オートでもシャッター速度か絞りのどちらかを表示するのが普通だった。つまり、絞り優先AEの場合は設定した絞り値に適正となるシャッター速度を、シャッター速度優先AEの場合は絞り値がメーターで表示されていた。中・高級機になると何とか工夫して設定した値も表示できるものが登場した。キヤノンEFはシャッター速度を表示できたし、ペンタックスの最高級機K2DMDは直読式と言う工夫で絞り値を光学的にファインダーで読み取ることができるようになっていた。直読式はレンズの絞りリングをそのままファインダーに表示する方法であるが、デジタル表示が一般的になるまでの間、かなり普及した印象がある。この方式はほとんどのメーカーの中・高級一眼レフで採用されたのではないかと思う。絞りとシャッター速度の両方が表示できれば申し分ないのだが、コストの関係でなかなかそうは行かないこともあった。先述のペンタックスK2DMDは直読式で絞り値をファインダーで確認できたが、廉価版のK2ではこの機能は省略された。キヤノンAE−1もファインダーでシャッター速度を確認できないスペックであった。もちろん両方を確認できなければ写真が撮れないわけではない。自分が意識して設定した値であれば別にファインダーで確認できなくても問題ないかもしれない。強いていえば、設定した絞り値ではスローシャッターになってしまい、シャッター速度を見ながら絞りを開けてゆくような場合には絞り値が確認できた方が便利であろう。しかしなければないでどうにかなるのも事実である。ファインダー表示がデジタルになってからはこのような問題は過去の話になった。デジタルならいつでも同じ場所にシャッター速度と絞りが数字で表示される。これは極めて優れたシステムであるが人間と言うのはわがままなものでデジタルになると今度はアナログ的な「量」かつかめないと言う不満が出された。それに対する回答がバーグラフである。ここまで来るともはやキヤノンFTbNどころの騒ぎではないのだが、一眼レフの情報集中ファインダー化の初期の一歩として、FTbからFTbNへのマイナーチェンジがあったと見ていいだろう。

 その他、セルフタイマーレバーの形状がF−1と同じになった。デザインとしては洗練されたが機能的には特に進化したわけではない。そもそもこのセルフタイマーはちょっと機能を持たせすぎである。反時計回りに回せばセルフタイマーとして機能する。これは当たり前である。右方向はスプリングバックになっており、押し込んでいる間絞りこまれる。いわゆるプレビューボタンである。まあ、ここまでであろう。ところが、セルフタイマーレバーの下にさらに小さなレバーがあり、二段階に押し進めることができ利用になっている。一段目は絞り込みのロックレバー。プレビュー操作をしながら一段目まで押し込むと絞り込みの状態が維持される。この状態でマニュアル測光が可能なため、FLレンズを装着した場合に真価を発揮する。その上で小さなレバーを二段目まで押し進めるとミラーがアップされる。まさに多機能セルフタイマーレバーである。この多機能なセルフタイマーレバーであるが、FTb系の廉価版カメラには搭載されなかった。ものによってはセルフタイマー機能まで省略され単なるプレビューレバーになってしまったりしている。ただし、プレビュー機能だけは最後まで省略されなかった。後年AE専用機ではことごとくプレビュー機能がなくなっていったのとは対象的である。FTb系のカメラにはFLレンズとFDレンズの橋渡しと言う大切な任務があったのだ。

その他の変更点についてはおおむね以下のとおりである。
1)巻き上げレバーのデザインが変わった。
2)シンクロ接点にカバーがついた。
3)シャッターダイヤルのデザインが変わった。
4)シャッターレリーズボタンの直径が少し大きくなった。
これらについては、まあ、マイナーチェンジと言ってもいいだろう。

FTbNはFシリーズの中堅機としてキヤノンの1970年代前半を支えたカメラであった。そして中堅機であっても決して手を抜くことなく、改良版を提供するあたりにキヤノンの誠実さを感じるのである。