キヤノン T50

 大成功したAシリーズのあとを受けて、キヤノンがスタートさせた新たなシリーズ「Tシリーズ」。そのトップバッターはT50だった。そのころ私は高校3年生。新たなTシリーズのスタートに、大げさではなく胸を躍らせ、大いなる期待を持って発売を待った。もちろんすぐには買えない。しかし、80年代の私の相棒になるであろうカメラである。 そして登場したT50。カメラ屋さんで手にした私は失望した。「何でこれがAシリーズの後継なんだ!これじゃオートボーイの後継機じゃないか!!」この発言はある意味正しかった。『キヤノンT50オートマン』が、キヤノンの最新一眼レフT50の愛称だった。オートボーイの兄貴分のつもりなのだろう。しかしいくらオートボーイが売れに売れていたからといって、本当にこれがキヤノンの80年代を背負う一眼レフなのだろうか?
 そのあと私はしばらく地上の楽園で生活する羽目に陥ったので、T50がどのような評価を受けたのか詳しくは知らない。販売実績も知らない。しかし、その後の一眼レフに影響を与えたことだけは間違いなさそうである。プログラムAE専用も丸出しのプラスチックボディも(たぶん)T50が最初であった(と思う)。

 私のFDシリーズコレクション(?)の中で、ラス前になってしまったT50。「いつでも買える」と思っているうちに、ズルズルここまで来てしまった。あるいは「何としても手に入れたい」と言う気持ちになれなかったせいかもしれないが。ともかく、プログラムAEしかないからカメラをいじる楽しみは望めないし、値段も値段だから所有する満足感も得られそうにない。しかし、FDシリーズも残りあと2機種になった今、ようやく「何としても手に入れなければ」と言う心境になることが出来た。そうなると縁が出来るものでYZさんのおかげで、このたびセール中のDELTA(大久保)で無事手に入れることが出来た。このようなカメラなので出来るだけリーズナブルに仕入れたかったという私のハートをつかんで離さない演出だった。

 ちょっと使ってみたが、やはり期待通りのカメラだった。ファインダー内の情報はPと稲妻とMしかない。シンプルで素晴らしい(嫌味)。しかし、よく考えて見よ!シャッターを押すとき、それほどファインダー内の情報を見ているだろうか?とくに、アグレッシブなスナップをするときには、ファインダー内の情報を見ている暇は(少なくとも私には)ない。そして(少なくとも私は)じっくり構えて写真を撮ることはほとんどない。ファインダー内の情報をじっくり見るのはフィルムを入れないでカメラを愛でている時である。これが楽しくて仕方がない。でもPと稲妻とMしかなければ、あんまり楽しくないだろうな。
 フィルムの巻き上げは毎秒0.7コマの内蔵ワインダーで行われる。これはT90とT60以外のTシリーズ共通の仕様らしいのだが、はっきり言って遅いぞ。Aシリーズのパワーワインダーが毎秒2コマだから、巻き上げ速度は半分以下。感覚的にはオートボーイ2の方が速いかもしれない。毎秒0.7コマだと、手で巻き上げた方があきらかに速い。ワインダーの利点はファインダーから目を離さずに巻き上げられることだが、この巻き上げ速度だと、手で巻き上げて再度ファインダーを覗いた方がストレスがないかもしれない。私が名機T70を主力に出来ないのもこのあたりに原因があるのだ。秒間4.5コマとは言わない。でも、最低2コマは欲しいものだ。巻き上げ速度というのは撮影のリズムにもつながるわけで、メンタルな面でも大切な要因なのだ。

 ところで、私はT50をいじっていて、あることに気づいた。ファインダーの中央部(スプリットマイクロ部)を凝視していると、ファインダーの情報が見えないのである。はじめは壊れているのかと思った。しかし、情報だけを見ればちゃんと見える。いったいどういうことだろう。中学校の理科の時間に盲点について習ったのを覚えているだろうか?なんと私の目の盲点がキヤノンT50のファインダーにピッタリ合致してしまったのである。驚いた。運命の出会いである。これほど相性が悪いカメラというのはそうはあるまい。

 最近の初心者向けカメラはすっかり贅沢な作りになってしまった。EOSKissだって、αSWEETだって、ニコンUだってみんなマルチモードAEが当然のように内蔵されている。わたしの家内はEOS反逆者2000(日本名KissIII)を使っているが、モードは緑の
以外に設定されたことがない。TvやAvモードの接点が腐って不具合が発生するのではないかと心配になるほどである。でも、仮にTvやAvモードが使えなくなっても彼女は気づかないだろうな。おそらく全世界の多くのKissIII我が家の「反逆者」と同様に、オートフォーカスの付いたT50として使われていることだろう。しかし、TvモードやAvモードを省略したところでたいして値段は変わらないと思う。日本の電子技術はそこまで来てしまったのだ。

 大ヒット中のEOSKissシリーズの源流はおそらくT50であろう。初心者向けの割り切った作りをキヤノンのお家芸のひとつにしたのはT50の功績である。それが今のキヤノン王国の土台になっているのだからT50を侮ってはいけないのかもしれない。
 なんてことを書くと、T50がえらく立派なカメラに思えてくるのだが、実際に手に取ってみると、やはりT50はT50でしかないのである。