キヤノン VL2

買ってはいけないカメラだった。

 私とてキヤノン党員の端くれである。キヤノンにレンジファインダーカメラがあるのはもちろん知っている。レンジファインダーと言ってもキャノネットやオートボーイではない。KWANONを源とする、フォーカルプレーンシャッターのレンジファインダーカメラである。一眼レフだけがキヤノンではないのだ。しかし私は、レンジファインダーのキヤノンには興味を示してこなかった。このホームページでもキヤノン製のレンジファインダーについてはほとんど触れてこなかった。いや、興味を示さなかったと言うのは正しくない。実は興味深々である。しかし、意図的に気にしないようにしてきたのだ。あるいは見ないようにしてきたともいえる。レンジファインダーのキヤノンはたまらなくかっこいいのだ。一眼レフとは違った魅力がある。絶対ハマるに決まっている。しかし、レンジファインダーキヤノンは安くないのだ。マニュアルフォーカス一眼レフだけで大変なのに、あんなものにハマったらえらいことになる。私は、雑誌でもムックでもなるべくレンジファインダーのページはサラッとしか読まないことにしていた。さらにレンジファインダーキヤノンは進化の形態が複雑で、ちょっとやそっとでは理解できそうになかった。こういう、一種幸せな状態がしばらく続いていたのだが、ついに、運命の出会いがおとずれてしまったのだ。

 その日私は、初めて新装なった松坂屋に行った後、江戸川橋まで足を伸ばした。「江戸川橋って、うちの事務所に近いんね」などと言いながらお店に入った。このお店は私がアメリカにいたころ開店したので、お店自体に行くのははじめてである。しかし、ここの店主はお店を構える前は、東京中のフリーマーケットに出店していたので、私は何回かお世話になった。今でも手元にあるキヤノンFXやアサヒペンタックスESIIは、そこで手に入れたものである。お店は狭かったが、お値段も低めで私の好きな感じである。それにしてもニコンF、F2が安くなっていた。これなら買えないこともないが、しかし買ってどうする?
 と、同じ棚にレンジファインダーキヤノンが置いてあったのだ。この手のカメラはたいていショーケースの中にあるのが相場なのだが、このお店では無造作に棚の上に触れる状態で置いてあった。歯切れよいシャッター。程よい重さ。見やすいファインダー。今まで触れてきたレンジファインダーキヤノンの少ない情報は間違いなかった。シャッター幕に若干しわが寄っているが、それほど問題はないような気がする。こればっかりは撮影しなければわからない。お値段は14,800円。安い。それとも最近はこんなものなのだろうか?いや、それにしても安いぞ。ところでいったいこれは何という機種なのだろう。今まで研究を怠ってきたせいで、機種名がわからない。シンクロ接点がついているから、V以降だろう。しかし、VなのかLなのか当然わからない。ファインダーが切り替わるところを見るとPではなさそうだ。思わず買いそうになって踏みとどまった。「レンズがないではないか。」この手のレンズは高いのだ。ボディが14,800円で買えたって、レンズは軽く倍はする。そんなには払えない。カメラの横にレンズが置いてあった。7,700円。ボディの倍ではなくて半分だ。財布の中にはおろしたばかりのお金がある。この状況で踏みとどまることのできる人がいたら、是非顔を拝みたい。いや、しかしこれは買ってはいけないカメラなのだ。このカメラを買ってしまったら、あとは「地獄が待っている」。

 今更、地獄の一つが増えたってどうってことはない。今だって十分地獄ではないか。ライカLマウント地獄というのもハマり甲斐があるかもしれない。それに私はなにもライカM3を衝動買いしようとしているわけではないのだ。たかが2万円台の話である。ライカさまとは桁が違うのだ。

 自分に思いっきり言い訳をして、ついにレンジファインダーキヤノンに手を染めてしまった。こんなに葛藤しながらカメラを購入したのは実に久しぶりだ。家に帰って調べてみて、こいつがVL2であることが分かった。V型の最高級機であるVLの廉価版。シャッター速度が1/500秒どまりであるあたりが残念であるが、シンクロ接点も付いた実用機である。いい買い物をした(断言)。
 今後の私がどうなるかであるが、とりあえず35mmのレンズを探す以外は目立った動きはない予定である。じっくり時間をかけていきましょう。ただ、35mmだけは何とかしたい。なんと言ってもファインダーに35mmがあるのだ。これを使わない手はない。ああ、きっとこうやってどんどんハマってゆくのだろう。

TO BE CONTINUED(たぶんね)