ペンタックス AUTO110

 Aシリーズと同世代のカメラではあるが、一般的な一眼レフとは言い難い。1970年代に一世を風靡した、110フィルム用の一眼レフである。当時は110フィルムのことをポケットフィルム、110フィルムを使用するカメラのことをポケットカメラなどと呼んでいた。私くらいの世代なら、たぶんポケットカメラといった方がしっくり来ると思う。
 110フィルムは1972年にコダックが自社製のカメラのために作ったフィルム規格である。正式名称は110だが、ポケットインスタマチックと言う名前で登場したらしい。結果的に失敗に終わったインスタマチックシステムのリベンジだったのだろう。インスタマチック同様小さなカセットに入ったフィルムで、カメラへの装填はふたを開けて入れるだけ、巻き戻す必要もなく撮影が終わったらふたを開けて取り出しDPEショップに持っていくだけと言うのもインスタマチックと同じであった。撮影画面が13×17mmと小さいのが欠点といえば欠点だが、それ以外は特に問題点は感じない。今から考えてもよくできた規格だと思う。
 1970年代はこの110フィルムとポケットカメラが大流行で、いろんなメーカーが110フィルムを使用するカメラを作っていた。110フィルムが出始めた頃はいかにも安い、固定焦点、露出はお天気マークといったカメラが主流であったが、日本の大手カメラメーカーが参加するようになってから一気に高級化が進んでいった。キヤノンも110EDという高級機を発売している。二重像合致式の距離計を内蔵し、絞り優先AEが付いていた。驚くことにレンズの開放F値ははF2である。ミノルタは1976年に110フィルムを使用した一眼レフを発売した。110zoomSLRと言うこの一眼レフカメラはレンズ交換こそでなかったが初めから、ズームレンズを内蔵していた。35mm換算で50mm〜100mmの望遠系に寄ったズームである。50mmから始まるのはちょっと使いにくそうな気がするが、当時はズーム自体がまだ主流ではなく、広角域を含む標準系ズームというアイデアはなかったのかもしれない。おそらく本家コダックも110フィルム用の一眼レフの登場は予想していなかったことだろう。このあたりがさすが日本だと思う。110フィルムを使えば小さなカメラが作れるので、日本人にとっては好ましい規格だったのかもしれない。

 ペンタックスAUTO110はそんな流れの中1979年に発売になった。今では面影もないが、当時のペンタックスは一眼レフ専門メーカーで、ポケットカメラも一眼レフでアプローチした。これが本当にかわいい一眼レフカメラでちゃんとレンズ交換もでき、専用ワインダーも準備されていて思わず微笑ましくなってしまう。レンズも手抜きをしないで作っているので110フィルムとしては、非常に高い画質が得られた。露出は完全なプログラムのみ、ファインダー内の表示も手ぶれ防止の警告表示だけ(高速シャッターの場合は緑、低速の場合は黄色のインジケーター)のシンプルな構造だった。それでもシャッター速度は1秒〜1/750秒まであり、高級機路線を貫いている。

 ところが1980年代も後半になると、ポケットカメラはまるで熱が冷めるように衰退してゆく。あれだけのシェアがあったのにいったいどうしたと言うのだろう。110フィルムの欠点はなんと言っても画質である。画面が小さいので35mmの画質には絶対勝てない。小ささ、手軽さが35mmに対するアドバンテージだったのである。ところが1980年代に入りオリンパスXA以来、35mmカメラもコンパクト化が進み、ポケットに入る35mmカメラが手にはいるようになった。なにも110でなくても、画質の良い35mmで小さなカメラが手にはいればそれに越したことはない。いったんかげりが見え始めると後は坂道を転げるように衰退してゆき、ポケットカメラはあっという間に市場から姿を消してしまった。今では大きなカメラ量販店の片隅にひっそりと110フィルムが売られている。ただ、もはや新品カメラの供給も絶たれているので110フィルムも時間の問題であろう。110フィルムより後に作られたディスクフィルムはすでに生産が終了している。

 というのは日本でのお話。私はアメリカに来るまで自分がAUTO110を買う日が来るとは思ってもみなかった。日本ではもはやラボの体制もぼろぼろでプリントを手にするまでにとてつもなく時間がかかったり、値段も高かったりする。そもそもフィルムの調達も容易ではなく、バリバリ使う実用にはなり得ない。ところが、アメリカでは110フィルムはまだまだ健在なのだ。110フィルムを使う新品のカメラがまだ店頭に並んでいるくらいなのだ。フィルムもスーパーマーケットで購入できるしラボの体制も35mmと変わらない。これは利用しない手はないと思いAUTO110を手に入れることにした。

 このカメラの魅力はなんといっても小さいことである。本当にポケットに入る大きさで、これだけでもこのカメラを手に入れた価値があるというものだ。このサイズでレンズ交換ができて、望遠、広角思いのまま、しかもワインダーまで付いていて一人前の一眼レフなんてまったく夢のようだ。もう重たい一眼レフを持ち歩く必要はない。望遠だって35mm換算で150mmまでそろっている。その高機能をこの小ささで実現できたのだから、そのほかに多くを望んでは罰が当たるというものだ。最近日本人は贅沢になっていけない。この小ささなんだからそのほかを望むなんて...(以下略)

 私のAUTO110なのだが、やはり写りが今ひとつなのだ。安く買いたたいたんで、どこか調子が悪いのかもしれない。ラボが下手くそなのかもしれないし、110フィルムの限界なのかもしれない。35mmと比較してはいけないのだろうか?ただ、AUTO110ファンの方々のホームページをみるとすごくよく写っているから、これは私のカメラのせいか、あるいはラボのせいか、もしくは私の腕のせいと言うことになるだろう。。と言うわけで試しにもう一台手に入れてみるか今思案しているところだ。アメリカでは比較的安く流通している。ただ日本に帰ってからのことを考えるとちょっと二の足を踏んでしまう。




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