コンタフレックスI

 コンタフレックスIは1953年、天下のコンタックスが発売した一眼レフカメラです。レンズが本体に密着しているデザインは独特で、今で言うなら一眼レフにパンケーキレンズを取り付けたようなスタイルです。我ながらものすごく悪いたとえですね。
 この時期のコンタックスというのは非常に複雑な製品構成をしています。レンジファインダーのコンタックスの生産は続いていましたが、同時にコンタックスSやコンタフレックスをラインアップしています。一貫性のあったライカとは対照的です。東西に分かれたドイツという環境の中で、もがいているようにも見えます。

 コンタフレックスシリーズですが、1953年から15年間に渡り、合計13機種発売されました。コンタックスIIIからは前群交換式の交換レンズが用意されています。露出計が内蔵されたり、レンズがテッサーだったりパンターだったり、シャッターがコンパーだったりプロンターだったりします。シャッターについては、コンタックスがコンパーとプロンターの両者を傘下におさめたために起こったことだそうです。細かい改良は繰り返されて操作性は向上していっています。ただ、基本的な部分は変わっていません。すなわち
1.レンズシャッターである
2.クイックリターンミラーではない

1950年代の前半は一眼レフの創世記であり、まさに混沌とした時代でした。ペンタプリズムとクイックリターンミラーがそれぞれ発展の過渡期であり、ビューファインダーを備えた一眼レフがあったくらいですから、まさに混乱の時代だったのでしょう。その中でコンタックスの一つのアプローチがコンタフレックスシリーズでした。つまり、レンズシャッターをつけた一眼レフです。今にして思えばこれはミスリードな訳ですが、その当時はクイックリターンミラーがなかったわけですから、レンズシャッターを組み込むというのも一つのアイデアだったのでしょう。
 ただ、今冷静な目で考えるとこのアイデアはなかなか難しい問題を抱えています。レンズシャッターですからシャッターはレンズの中、つまりミラーの前にあります。そして、撮影するためにはファインダーを覗かなければなりませんから撮影前は当然シャッターは開いていなければなりません。ミラーだけで十分遮光出来ればいいのですが、それは望めません。結局コンタフレックスはミラーの後ろに遮光板を設けています。さて、それではどういうシークエンスで撮影が行われるかというと
1.シャッターボタンを押す
2.開いていたレンズシャッターが一端閉まる
3.その後ミラーと遮光板が同時に上がる
4.ミラーと遮光板が上がりきってから絞りが絞り込まれ、レンズシャッターが再び開いて露光する
5.レンズシャッターが閉まる
 つまり、レンズシャッターは一端閉まってからまた開くという動作を一瞬のうちに行っているのです。さて、これで一連のシークエンスは終わりです。「あれっ、ミラーと遮光板が下がって、レンズシャッターが再び開くのは?」これはシャッターレリーズのシークエンスには入っていません。次の巻き上げまで、ファインダーは真っ暗なままという仕様です。1950年代前半であればこの仕様は珍しくも何ともありませんでした。フォーカルプレーンシャッターであっても撮影後ファインダーが真っ暗なのは同じでした。ただ、クイックリターンミラーが実用化されフォーカルプレーンシャッター機が「ファインダーが一瞬しか暗くならない」仕様になってもコンタフレックスは依然としてそのままの仕様でした。もし、レンズシャッターで「ファインダーがブラックアウトしない」ように作ろうとすれば、前記のシークエンスの最後にミラーと遮光板が下がって再びシャッターが開くという動作が必要になります。しかしこれはきわめて困難です。普通、1回のシャッターチャージで1回分のシャッターの機動力を蓄えますが、コンタフレックスは1回半分の機動力をチャージしています。更にシャッターを開く機動力を蓄えるのはどう考えても、無理です。仮に可能だとしてもものすごく複雑な構造になり、シャッターのチャージにものすごい力が必要になるでしょう。実際、コンタフレックスの巻き上げはものすごく重いのです。シャッターの構造は複雑です。これで、故障が起きないのが不思議です。そしてこれだけ苦労しても結局フォーカルプレーンシャッターを上回るメリットはそれほどないのです。それほどと言ったのは実はないことはないのです。コンタフレックスIが発売された1953年はまだ、一眼レフの自動絞りはありませんでした。つまり、絞り込めばファインダーも暗くなってしまうのです。ところがレンズシャッターを組み込んでシャッターの動きに連動する絞りを備えているコンタフレックスIは自動絞りを実現しています。コンタフレックスのメリットはこれだけと言ってもいいでしょう。

 私のコンタフレックスIはシャッター不調でした。この件についてはe-bay日記に少し書いてしまったので繰り返しになりますが...そもそも私はこのコンタフレックスIを使おうと思って買ったわけではないのです。コンタフレックスIVに付けるアクセサリーシューが欲しくて探していたところ、アクセサリーシューの単価と同じくらいの値段でアクセサリーシューの付いたコンタフレックスIがあったのでカメラごと買ってしまったのです。アクセサリーシューに付属品としてカメラが付いてきたと思ってください。
 ところがコンタフレックスIVが遮光板の動作不良で修理不能になり、意地でもコンタフレックスIを直さなければならなくなりました。$20で出ていたカメラですから状態の悪さは半端ではありません。シャッターが全然開かないのですが、これはどうやらオイル切れのような雰囲気です。ばらしてわかったのですが、ボディとレンズの間は大変複雑な構造になっています。なんとかオイルをさしたのですが、組立は本当に困難を極めました。糸を使ったり色々工夫してなんとか組み上げたのですが、もう勘弁して欲しいという感じでした。これを作ったコンタックスの技術者は本当に偉大です。
 レンズはテッサーなのですが表面はボロボロです。しかしこれはどうしようもありません。コンタフレックスIII以降ならレンズの交換も可能なのですが、Iはレンズ固定です。

 一応動くところまでは修復しましたので早速撮影です。使ってみての感想ですが、やはり使いにくいですね。ファインダーがブラックアウトするのはそれ程気にならないのですが、基本的にファインダーが見にくいです。フルネルレンズがくっきり見えて、しかも相当暗いファインダーです。この仕様で、もしレンズが交換できれば我慢もしましょう。100mm以上のレンズをレンジファインダーで使うのは現実的ではありません。しかし、コンタフレックスIはレンズが交換できないのです。何でこんなに苦労して一眼レフを作ったのでしょう。「これならレンジファインダーのコンタックスの方がいい」と思ったとしても仕方ありません。これがコンタフレックスIIIになるとレンズが交換可能になるので不便な点はあるとはいえ、あえて使う価値があると思います。そうなるとコンタフレックスIの今日的な価値はテッサーレンズと言うことになります。しかし、私のコンタフレックスのテッサーは損耗が激しく本来の能力とはほど遠いのではないか、と言う気がします。

 こうなるとコンタフレックスIII以降の機種が欲しくなりますね




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