コピーライカII(ゾルキーI)
ソ連製のコピーもののライカである。もしこれが本物ならそれこそ家一軒ものかもしれないが、当然ながら偽物である。ちまたに出回っている旧ソ連製ライカIIのうちの一台を使ってライカの偽物に改造したものであろう。旧ソ連はFEDやゾルキーと言った名だたるメーカーがライカIIのデッドコピーを作っていたのは有名な話で、このカメラはゾルキーIから作られたものだ。
私はこのカメラを2000年の春、ネットオークションで本場(ロシア共和国)から購入した。どうやらロシアに住んでいるアメリカ人で、ロシア関係の工業製品やおみやげを手広く通信販売している人らしかった。2001年の初め頃、この人のオークションで日本人らしき人が一人、片っ端からカメラを落札していたことがあった。同じカメラを何台も落札していたから、多分プロなのではないかと勘ぐったが確信はない。まあ、ネットオークションのルールに違反しているわけもないし、こっちの欲しいものと競合しているわけでもないので特にバトルを演じることもなかったのだが、ちょっと露骨だったのであまり品がいいとは思わなかった。3ヶ月ほどで欲しい分の在庫がそろったのか、ぱたりと落札者の名前から消えて行った。
蛇足であるがE-bayにおける入札の仕方と言うのは結構人間性が出ておもしろい。どうしても欲しいものがあったときに、私が良くやるのは超直前大兵力投入入札である。オークション終了時間にパソコンに向かっていられると言う保証があれば、これがもっとも確実に安く落札できる方法だろう。ちなみにこの方法は自動延長されるヤフオクでは使えない。と言うかE-bayでは自動延長がないのだ。これはバイヤーに有利なルールだろう。このあいだ、キヤノン関係の本を落札したのだが、入札終了時間にパソコンの前にいられなかったため、この時はちょっと失敗してしまった。終了時間が昼間で仕事をしている時間だったので、仕方がないので出勤前に多めに入札することにした。その時点では$10そこそこの値が付いていた。一応念のために私は$30まで賭け、仕事が終わって家でe-bayにアクセス、結果を確認してみると、落札できてはいるが、値段が$25まで跳ね上がっていた。入札ヒストリーを見てみると、一人の入札者がオークション終了の10分前からチビチビ賭けて様子を見て、結局8回入札して$25までいっても落札できなかったためあきらめたらしい。あぁ、だめだ、この人戦略の基礎がわかっていない。「兵力の逐次投入」はもっともまずい戦略なのに。ベトナム戦争がそれを証明しているのに。私の$30は北ベトナム軍のように兵力の逐次投入に耐え、無事に本を落札することができたが、これはあまりいい買い物とはいえまい。もし私が超直前大兵力投入入札をすることができたら、確実にもっと安く落札できただろう、きっと。この彼が10分前に$15くらいで入札、直前に私が$30を入札し、最終価格$16で落札というところか。ただし、これだけははっきり言えるのだが、E-bayにおける超直前大兵力投入入札ほど、品のないものはない。私は何度も煮え湯を飲まされてきた。これをやられると本当に頭にくる。
私がこのカメラを落札した動機は、ちょっと今となってはよくわからない。e-bayでこのカメラを見たのがオークション終了数分前だった。このカメラ、実はほぼ定期的に出品されているのだが、その時はそうとは知らなかった。値段は私の衝動買いの基準をわずかに上回る程度の金額。その時私の背中を押したのが、ドイツ第3帝国のマーク、「ライヒスアドラー」だった。かの、サンダー平山氏が「ライヒスアドラー」入りのコピーライカを購入した話を雑誌で読んだことがあった。サンダー氏のコピーライカは、そのまま関東カメラサービスのお世話になったそうだが、これは完動品らしい。「時間がない。サンダー氏も買った。物ホンのライカは持ってない。Lマウントのカメラも持っていない。ロシア製のカメラは最近いい評判しか聞かない...」と言うような言葉が頭の中をぐるぐる回って、迫り来るオークション終了時間に冷静な判断力を奪われ、思わず勢いで競り落としてしまったのだ。落札後の心境は「あぁあ、まあいっか」と言う感じだった。
さすがにロシアからなので、2週間ほどかかったが、きちんと頑丈に包装された小包が届けられた。開封して本体を取り出す。金属部分のゴールドも非常に綺麗、傷もなく新品同様のコピーライカが出てきた。可動部分の確認も行ったが特に問題はなさそうだ。本物と比べてどうかという話については、そもそも本物のバルナックライカを触ったことがないので、比較の仕様がないのは悲しいところだ。でも、本体はそんなに粗悪ではないと思う。まあ、ライカを知らずしてライカを語ってはいけないらしいので、あくまで「私の基準としては合格」と言うことにしておこう。
実際に撮影してみた。ロシア製のカメラに当たりはずれがあるというのは有名な話で、誰でも知っていることであろう。もちろん私も、雑誌やホームページでソ連製カメラの当たりはずれの話を読んだことはあった。特にレンズは当たりはずれが大きいという話だ。しかし、当たりはずれがあると言いながら、「私ははずれだった、こいつはひでぇ」と言う話はほとんど聞いたことがなかったのだ。どこに行っても「当たりはずれはあるが、私のは当たりである。これなら本家のエルマーにも引けを取らない」と言うようなインプレッションばかりで、わたしは「実ははずれはないのでは」と思い始めていたのである。そこで使ってみての感想だが、残念ながら私のははずれだった。「こいつはひでぇ」と言ってもいいような代物であった。うまく説明できないが、画面の中央付近が極端に甘い。言っておくが周辺ではなく中央付近である。「レンズにゴミでも着いてるんではないか?」と思うほどだ。絞り込むとやや良くなるが、抜本的には解決されない。良く覚えておいていただきたい。「ロシア製のレンズには当たりはずれがある。ここにはずれを引いた男がいる。」と。よく考えてみれば、はずれを引いた人は、「自分ははずれを引いた!」とは吹聴しないものである。
さて、私がコピーエルマーのはずれを押して、このカメラをガシガシ使っているかというと、決してそうではない。じつは、使いたいのだが使えないのだ。問題は軍艦部とレンズキャップのライヒスアドラーのマークである。日本人はこのマークにさほど抵抗はないのだが、欧米、特にヨーロッパでは未だにナチスはタブーのようなところがある。このカメラのオークションも2000年の夏あたりから、ライヒスアドラーのマークに目線のようなものを入れて画面上に画像をして写らないようになっている。こんなカメラを堂々と持っていたらナチの信奉者かと思われて、予想外のトラブルに巻き込まれる可能性が本当にある。いや、これは冗談ではないのである。
このカメラは日本に戻ってから、ゆっくり使うことにしたい。できればレンズだけはちゃんとしたエルマーに変えてあげたいものである。
旧ソ連製のカメラにも、お奨めのホームページがある。有名なホームページなので、私が紹介するのはおこがましいのだが、Fantastic Camera Gallery というホームページでである。一度訪問したらきっと癖になるだろう。