ベルハウエル(キヤノン)ダイヤル35

1960年代にキヤノンが作ったハーフサイズのカメラです。昨今の中古カメラブームにのって、日本ではかなりの値段になっていたような気がします。1999年で当時30,000円くらいでしたが、今はいくらくらいでしょうか。風の噂ではデフレの影響か、中古カメラの値段も一時期ほどではないとか。何せアメリカにいると、日本のカメラの相場がわからなくなるので「安い!」と思って買っても実は「最近の日本の相場とさほど変わらなかった」なんていうこともあり得ます。なんせ中古カメラは「時価」ですから。

もちろんこのカメラは日本では「キヤノンダイヤル35−2」です。ところがこのカメラが発売された1960年代は、日本のカメラが世界を席巻するには至っていない時代で、日本のカメラは海外に進出するときは海外の代理店の名前やブランド名を付けて売られていました。Honeywell Pentax、やBeselar Topconが有名です。そのほかデパートのSearsの名前でリコーの一眼レフが売られていました。

このダイヤル35はアメリカではベルハウエルから発売されました。ベルハウエルは今では細々とコンパクトカメラを売っているだけですが、当時は代理店として自らのブランドでダイヤル35を売っていたのですから大したものです。ベルハウエルのダイヤル35にはキヤノンの名前はどこにもありません。1960年代初頭のキヤノンは、Rシリーズの一眼レフとレンジファインダー機、そしてキャノネットでしたからニコンほど海外におけるブランドパワーはなかったかもしれません。私の生まれる前の話ですから当然知る由もないのですが、こういった体制が終わりを告げるのは1980年代になってからでしょう。

私が小学校低学年くらいの頃までは、アメリカ製=高性能、高品質と言うイメージがありました。「これアメリカ製だよ」「へーすげー」ってかんじでした。それが中学に入った頃からだんだん日本製品が強くなり、自動車産業がアメリカを制してから完全に風向きが変わりました。今日本は中国から安く輸入される繊維が問題になりセーフガードを発動しようとしていますが、四半世紀前は日本が今の中国の立場でした。変われば変わるものです。それに伴って日本のカメラメーカーの世界に於ける立場も変わってゆきました。オリジナルにブランド力があれば誰も代理店の名前を使いません。コンタックスやライカにベセラーやベルハウエルの名前を付ける人はいません。アメリカの代理店の名前を冠した日本製のカメラたちは戦後の国産カメラの興隆を物語る証人です。「Made in Occupied Japan」で始まる戦後のカメラ史の大切な語り部です。

ダイヤル35の最大の特徴はなんといってもそのインパクトのあるデザインです。ASA感度によってcdsにマスクするための円い窓がずらりと並んでいて、電話のダイヤルのような形をしています。とここまで書いていて思ったのですが、果たして今の子供達に電話のダイヤルと言って通じるでしょうか?おそらく彼らにとって電話といえばすべてプッシュ式でしょう。私の実家は相当遅くまでダイヤル式の電話でしたが、電電公社がNTTに変わった後プッシュホンに替えました。電電公社からNTTに変わったときは衝撃でしたね。「留守番電話がこんなに簡単に利用できるのか」と思いました。電電公社の頃の留守番電話(でんわばん)は電話の下に巨大な箱を付けなければならなかったのですが、今にして思えばあれっていったい何だったんでしょうね。

カメラの方ですが、そのデザインゆえにハーフサイズですが横長の画面で、フィルムの巻き上げはゼンマイ式です。シャッターを切ってリリースボタンから指をはなすと、元気な音を立ててフィルムが巻きあがります。撮影が終わり巻き戻しボタンを押すと、巻き戻しもゼンマイで自動的に巻き戻してくれます。が、どんなにゼンマイを一杯に巻いておいても、フィルムを巻き上げる途中でゼンマイが力尽きます。ゼンマイが力尽きた後は当然手で巻き戻さなければなりません。露出はなんとシャッター速度優先AEです。ファインダー内の情報は凝っていて、絞りの値とピントの情報をメーターで示してくれます。ダイヤル35には距離計は付いていないのですが、ファインダー左側に今合っている距離の情報を示します。要はレンズに付いている距離の値をファインダー内で確認できるのです。ちなみに表示は距離の数字そのものではなく、山、集合写真、ポートレートのイラストにフォーカシングレバーに連動したメーターの針が合うようになっています。日本カメラのニューフェイス診断室では、露出にややばらつきがある、と言う指摘がありましたが、私のような用途では特に問題は感じません。

このカメラは今からガシガシ使うようなカメラではありませんが、見た目もかわいらしく、とにかく持っているだけで何となくいい気分になれます。まあ、値段にもよりますが、持っていて損のないカメラではないかと思います。





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