アサヒペンタックス ESII

1973年にSPFと同時発売された絞り優先AE一眼レフである。世界初の絞り優先AE一眼レフ、アサヒペンタックスESのグレードアップバージョンとして発売された。モノの本には「ESの電子回路をIC化し安定性を高めたため、8秒までの長時間露出をAEでコントロールできるようになった」と書いてあるが、この説には異論もあり、どうも単純に「ESのIC化=ESII」にはならないようである。私は詳しい内部構造のことはわからないのだが、ESには日本国内のみで少数発売された初期型があり、これがIC化前のモデルで、海外も含めて本格的に発売されたESはすでにIC化されていたらしい。ESのカタログには載っていないが、IC化されたESは、実際には8秒までの長時間AE撮影が可能になっているらしい。ESからESIIへの主な変更点は、電池が4SR44からSR44×4個になった点、スペースの関係でなくなったセルフタイマーが復活した点である。また、ESIIにはアイピースシャッターが搭載された。電子回路の件についてはつが_の氏のホームページに詳しい解説がある。

 さて、このESIIだが、いいカメラだと思う。値段の関係もあってSPほどのスーパーベストセラーにはならなかったようだが、この時代に高い完成度でAE一眼レフを世に送った旭光学の技術力は称賛に値する。私がこのカメラにこだわるのはやはり、SマウントいわゆるM42のスクリューマウントの魅力ゆえにである。現代の目から見ればスクリューマウントにはそれほどのメリットはないだろう。はっきり言ってレンズ交換には時間がかかるし、引っかかりが悪いとなかなかレンズがくっつかない。それでも、クルクルとレンズを回していると、「カメラで写真を撮っている」と言う実感がわいてくる。それでいい写真が撮れれば文句ないのだが、そこから先はウデの問題、私にはどうしようもない。
 キヤノンのカメラでもそうだが、ピンとレバーでレンズをコントロールしていた時期は、何となく「自分でカメラをコントロールしている」と言う実感があった。「Aシリーズは電子カメラだからねぇ(所詮はカメラにコントロールされているんだよ、やはりフルメカニカルだよ)」と言う方も存在するが、私に言わせれば「そんなことはない」。キヤノンAシリーズでも、私は「自分でカメラをコントロールしている」と感じる。FDレンズをはずしてボディだけでシャッターを切ると、その複雑なレバー関係の動きがよくわかる。「このレバーが動いて絞り込まれる」とか「このレバーが絞り値を伝達している」と言う様子がよく理解できるのである。これが電子マウントになると当然ながら何が起こっているのが全然わからない。その「感じ」がどれほど出力である写真に影響を与えるかはわからないが、少なくとも道楽で写真を撮っている人にとっては大切な感覚だと思う。

 マニュアル操作のカメラを好むのは決しておかしなことではない。カメラに限らず機械操作のものには何かしら説明しがたい魅力がある。それが趣味であり、道楽だと思う。時計好きはクォーツよりも自動巻きを好むし、オートマチックの車は便利ではあるが車好きはあえてマニュアルミッション車を選んだりしている。

 余談だが、私の家の隣にはアルゼンチン人が住んでいる。あと1年で国に戻るのだが、せっかくだからと言うことで、本国に持って帰ることを前提にして車を新調した。スバル(富士重工業)の車だった。「アメリカに来て何で日本車?」と言う話はとりあえず置いておくとして、かれらは数ある選択肢の中から「あえて」マニュアルミッション車を選んだのだ。彼らは車マニアだったかというとそうではなく、どうもアルゼンチンにはオートマチック車はあまり普及していないのだそうだ。と言うかほとんどないらしい。万が一故障した場合は手の施しようがないか、法外な修理代金を請求されるのだそうで、あまりにリスクが高すぎると言う話であった。「日本車はそんなに壊れない」とも思ったのだが、故障はたいていどうしようもない状況で発生するので迂闊なことは言えない。美人の奥さんはオートマチックが好きだったらしいのだが、背に腹は代えられない。なお、これらの情報は日本語、スペイン語を母国語とする人たちが英語によって会話した内容なので、聞き違い、誤解があったとしても私は責任をとれない。ただオートマ車がほとんどないと言う話で私は「Really?」を何度も繰り返しましたが、彼は否定しなかった。

 私はこの年になるまで海外は旅行でしか言ったことがないというドメスティック野郎だったのだが、海外で生活して本当に日本のスタンダードで物事を判断してはいけないと痛感した。オートマが当たり前ではないのだ。オートフォーカスが当然ではないのだ。ペンタックスK1000がどうして90年代中盤まで作られていたか?海外ではそのニーズがあったからなのだ。

 ところでスタンダードの違いといえば、アメリカで普及しているフィート・ポンド法はまったくもって何とかして欲しい。基準単位がセンチやグラムと違うのはまあ、我慢しよう。問題はたくさんあるのだが、まず、フィート・ポンド法は10進法ではない。12インチで1フィート。では12進法かと思うと3フィートで1ヤード。そしてマイル(哩)は1760ヤード。ポンドの方はもっとひどい。ポンドとオンスの関係は16オンスで1ポンド。オンスは液体にも使われるのだが、128オンスが1ガロン(3.785リットル)。1/4ガロンが1クオート。1/8ガロンが1パイント。日本で言う360ml缶がこっちでは12オンス缶(正確には355ml)。こんなにややこしかったら使わなくなりそうなものだが、しっかり根付いているのは不思議だ。商品にはオンスとミリリットルが両方書いてあったりする。D−76現像液の小袋は1クオート。1リットルではない。こうしてみると、どうやらガロンが基準になっているような気がするのだが、このガロンという単位がまた曲者で、国によって特色がある。アメリカは3.785リットル、英国では4.546リットル。こんないい加減な単位ははっきり言って使えない。そもそも単位として機能していないではないか。クオートもパイントもアメリカとイギリスでは別物である。しかし128オンスが1ガロンと言ったが、これはアメリカでの話。英国では160オンスが1ガロン。おっ?となると1USオンスは29.6ミリリットル、1UKオンスは28.4ミリリットル。おおっ、近づいてきた!これなら単位として使えるかもしれない。しかし、そうだとしても、さっさとフィート・ポンド法は捨て去るべきである。メートル法なら何の問題もないのに。万事この調子だから真の国際協調は難しいだろう。しかし実際彼らはどうやって交渉しているのだろうか?国際的な話になるときだけメートル法になるのだろうか?

 ESIIだが、やはり道楽で使うなら、ある程度機械の味がある方がいいと思う。じゃあ、根性を見せていつでもキヤノンFPを使えばいいのだが、オート世代の私にはそれはあまりに荷が重い。やはりキヤノンA−1クラスが適当である。しかし、今日はちょっと古いカメラを(私にとってA−1は古いカメラではない)と言う気分の時にESIIやSPFは最高である。スクリューマウントのレトロな感じが撮影意欲を高め、しかしAE、もしくは開放測光のマニュアルというのはギリギリの線で、私の欲求を満たしてくれる。もちろん私は時々蛇腹式の訳の分からないカメラで写真を撮ったりもするが、それは大学時代に一時の気の迷いで自分をいじめるため、きたえるにラグビー部に入ってしまったのと同じで、基本的にはずっとそれを使うものではない。時々がいいのである。ちなみにラグビー部は途中で退部することができず、不本意ながら最後まで続けた。ずっと使う機種としてはESIIが私にとっては適度なレベルだと思う。まあ、このあたりは個人の好みですので力説しても仕方ないのだろうが。




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