アグファ オプティマセンサー FLASH

 このカメラを初めてみたのは、去年の秋である。ふらっと寄った本屋にカメラコレクションの本があり、その中に載っていたのである。ストロボ付き、ビューファインダー式のコンパクトカメラである。距離計はついてない。イメージとしてはピッカリコニカである。ただ、ストロボが折り畳まれる構造がおもしろかったので、ちょっと気になった。
 アグファ。アメリカのアンスコがずいぶん長い間アグファブランドのカメラを作っていたが、このメーカーは実際どのようなメーカーなのだろう。
 アグファと聞いて一番はじめにイメージするのはフィルムメーカーのアグファゲバルト社である。安いフィルムを供給しているので日本にいたときはよく利用した。あっさり系の発色であるが、値段には代えられない。確かこの会社はドイツの会社だったと思う。しかし、戦前からアグファブランドのカメラを作っていたのはアメリカのアンスコなのである。私の持っているアグファビりーレコード4.5もアンスコ製である。全く別の会社とも思えないのだが、このあたりはどうなっているのだろう。

 と思っていたら尾張屋さんのサイトにしっかり説明が出ていた。灯台もと暗しであった。尾張屋さんのサイトによるとアグファとアンスコは提携関係にあり、アンスコ社の小型カメラの一部はアグファで作られていたらしい。今で言うOEMである。ところで私もっているブルーブック(中古カメラの価格表の本、結構高い)には、会社としてアグファは載っていない。すべてアンスコ製のカメラとして紹介されている。アグファブランドのカメラであってもである。私の偏見かもしれないが、アメリカ製のカメラがドイツ製のカメラより優れているとはどうしても思えない。もちろん過去にアンスコが優れたカメラを発売していたのはわかっているが、どうも気持ちとして納得できない。まあ、それを言いはじめればペンタックスがハニーウェルと提携していたのも今となっては信じがたいし、キヤノンとベルハウエルの関係もそうであるから、単に時代のせいかもしれない。

 アグファオプティマセンサーFLASHは1977年製のカメラである。1977年といえば、ピッカリコニカから2年目、ジャスピンコニカが発売された年である。そう考えるとこのカメラはおおむね時代の流れに即している。このカメラの特徴はなんと言っても折り畳み式のストロボにつきる。オプティマセンサーフラッシュは軍艦部のど真ん中に位置してる。日本のフラッシュ内蔵カメラは、デザイン的には一番はじめに登場したピッカリコニカを踏襲していると思う。つまり、フラッシュフジカにしろキヤノンナイターにしろ、左肩にストロボがついていて、真ん中にファインダーがある。左肩にストロボを持ってきたのは、赤目を防止するためらしい。日本人はあまり発生しないが、それでもストロボとレンズの物理的な距離が近いと赤目が発生しやすくなる。欧米人の場合は特に顕著でストロボ撮影を行うと相当高い確率で目が真っ赤っかになる。赤目を防止するためにピッカリコニカで採用されたのがポップアップ式のストロボである。ポップアップさせればさらにレンズとフラッシュの距離をかせぐことが出来ると言うわけだ。
 しかし、白人が多いドイツでは日本より赤目の問題が深刻だったのだろうと思う。ドイツ製のオプティマセンサーFLASHはさらに大胆な方法を採った。オプティマセンサーFLASHの折り畳み方法を採ればポップアップストロボよりさらにレンズと発光部の距離は離れる。そのかわり、使わないときのフラッシュはあまりスマートではない。見るからに「フラッシュの付いたカメラ」と言う感じがする。

 このストロボのデザインに限らず、オプティマセンサーFLASHは日本製のカメラとは根本的に違う、独特の操作性を持っている。
 まず、巻き戻しクランクがない。これでどうやってフィルムを巻き戻すのだろう?自動巻き戻しなのだろうか?しかし、巻き上げが手動で巻き戻しを自動にするわけがない。ひょっとして最初に全部フィルムを巻き上げてしまって、巻き戻しながら撮影するスタイルなのだろうか?しかし、それにしてはモーターが付いているようには見えない。これは本当にしばらく悩んでしまった。これが中国製のカメラなら、何か特別な力を使って巻き上げるのかもしれないが、これはドイツのカメラである。もしこれが北朝鮮製のカメラなら(以下省略)。
 答えはなんと巻き上げレバーで巻き戻すのである。フラッシュと持ち上げるとボタンが隠れている。このボタンはフラッシュのオンオフスイッチなのだが、よく見ると「・R」と書いてある。このボタンは押しボタン式のスイッチであると同時に、巻き上げ、巻き戻し切り替えスイッチにもなっていたのだ。ボタンをRに合わせると内部のギヤが切り替わって、巻き上げレバーで巻き上げ操作をすることにより巻き戻しが行われるのである。もちろんヒトコマずつ巻き戻す。さらにこの巻き戻し操作がかなりの重労働なのだ。ギヤが複雑に絡み合っているせいかレバーはかなり重い。どうやったって巻き戻しクランクの方がはるかに楽である。急いでいるときは泣きたくなるだろう。

 さらによく見るとこのカメラの巻き上げ、巻き戻し系統がきわめて複雑な構造になっていることがよくわかる。このカメラは巻き上げレバーの真下にフィルムパトローネを入れる。つまり巻き上げレバーの軸とフィルムを巻き付ける軸が同軸ではないのだ。お手元にあるカメラの裏蓋を開けてみていただくとわかるが、普通巻き上げレバーとフィルムを巻き付ける軸は同軸である。しかしまた何でこんな複雑な構造にしたのだろう。もちろん原理は理解できるが、あえてこの方法を採った理由がさっぱりわからない。別にこんなものに特許があるとは思えないし見るからにトラブルが多そうな気がするが実際はどうだったのだろう。

 ともかく舶来のカメラは我々の常識を簡単に覆してくれるので面白い。ちなみにこのカメラ、製造はポルトガルである。








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