Pax M4
その日私は、カメラを求めて小さな展示場をさまよっていました。2001年の春のデンバーカメラトレードショーでの話です。リコーXR用のワインダーは手に入れたのですが、もちろんそれだけで満足行くはずはありません。前回のトレードショーでアーガスC44を買って気をよくしていた私は、今回も安くてちょっと珍しいカメラを重点的に探していました。そこで私の目に留まったのがこのカメラです。「Pax M4」。国産一眼レフならともかく、私はレンジファインダーにはとんと疎いので、これがどこのカメラか、どんなカメラかさっぱりわかりません。M4と言えばやはりライカM4。しかしどうやらこれはライカM4ではないみたいです。私にわかるのはそこまでです。
まず、前時代的な豪華革製バッグに入っています。カメラも革製のケース入りです。カメラが高級品だった時代のものでしょう。ケースを開けてみると、とっても小さなボディがでてきました。もちろん終戦直後のサブミニチュアよりは大きいですが、レンジファインダーカメラとしては今まで見たことがないくらいの小ささです。キヤノンオートボーイより小さく、あとで比べてみたのですがオリンパスペンEE−3とほぼ同じ大きさです。しかし小さな図体の割にはずっしりした質感があります。測ったところ510gもあります。距離計は一眼式で表示はフィート、巻き上げはレバー式、巻き戻しもクランク式、フィルムのコマ数も順算式自動復元です。明らかに先般のアーガスC44よりは進歩しています。レンズはLuminor Anastigmat 1:2.8 F=45mmがついています。
シャッターを切ってみました。このカメラはレンズシャッターです。それはそれは小さな音でうっかりするとシャッターを切ったかどうかわからないくらいです。シャッター速度は1/10〜1/300とバルブ、ストロボの同調は可能で、ストロボとフラッシュの切り替えスイッチまで付いています。その他、テレとワイドのフロントコンバージョンレンズと立派な外付ファインダー、反射式の露出計が付いています。年代的には1960年代かな?と言うところです。
しかし、依然としてこのカメラがなにものかわかりません。名前からしてフランス製のような気もします(根拠なし)。これはとりあえず買ってみるしかないでしょう。値段は全部込みで$60です。まあ、十分安いと言っていいでしょう。
家に帰ってからバッグを開けて、入っていたモノをすべて出してみました。するとバッグの一番下から、取扱説明書がでてきました。メーカーはYAMATO CAMERA INDUSTRY CO., LTD。これは日本製ですね(^_^;)。大和写真工業と言ったところでしょうか?保証書にはYAMATO KOKI KOGYOと書いてあります。大和光機工業でしょう。しかし残念ながら私は大和光機と言う会社は知りません。現在手に入る限りの資料を調べてみましたが、有力な情報はありませんでした。断片的に得られた情報としては、大和光機のPaxシリーズは世界最小のライカ型カメラと呼ばれていたこと、ゴールドモデルがあること、M4はどうやら1960年の製造らしい、と言うことくらいです。大和光機がその後どのような道を辿ったかも、残念ながらわかりませんでした。
ところで、M4と言うくらいですから当然M3やM2があるわけです。ネットオークションで検索をかけたところやはりでてきました。M3やM2はM4よりもっとバルナックライカのデザインを意識した作りになっています。おそらくM型ライカの登場を受けて作られたのがM4だったのでしょう。
取扱説明書は当然英語です。ただ、使われている写真は五重塔だったりだったり、鎌倉の大仏だったりして、いかにも外人が喜びそうな作りです。このカメラの売りはやはり、フロントコンバージョンレンズだったようで、取扱説明書の他に、レンズの使い方を説明した別の冊子が付いています。大和光機の気合いを感じます。
ところで、このクラスのカメラはなんと言って分類するのが正しいのでしょうか。レンズシャッターカメラでしょうか、それともレンジファンダーカメラでしょうか。もちろんPaxM4の場合はどちらでも正解ですが、かりにこれをレンズシャッターカメラと分類すると、M型ライカはフォーカルプレーンシャッターカメラになり、当然一眼レフと同じ分類になってしまいます。現在一般的に使われていると思われる分類は一眼レフ、二眼レフ、コンパクトカメラ、レンジファインダーカメラ、中判カメラです。よく考えてみるとえらく杜撰な分類ですね。中判カメラはフィルムのサイズですし、コンパクトカメラについては単に小型カメラと言う意味ですから、機構的な縛りはないはずですが、便宜的にレンズシャッター付きの小型カメラを指しています。ペンタックスAuto110をコンパクトカメラとは言わないでしょう。現在レンジファインダーカメラと呼ばれているのは連動距離計が付いていて、フォーカルプレーンシャッターでレンズの交換が出来るカメラを指しているような気がします。となるとコンタックスGシリーズはどのカテゴリーに分類すればいいのでしょうか?オートフォーカスのカメラってレンジファインダーと言っていいのでしょうか?
ちなみにアサヒソノラマのクラシックカメラ専科47クラシックカメラガイドによると、一眼レフカメラ、35mmレンズシャッターカメラ、35mmフォーカルプレーンシャッター、35mmスプリングカメラ、二眼レフカメラに分類されています。コンパクトカメラやレンジファインダーカメラと言うようなカテゴリーはありません。今で言うコンパクトカメラは35mmレンズシャッターカメラに分類されています。この分類、詳しく見ると非常に良くできていますね。
私は小学生の頃、撮影用のレンズの他にファインダーがあるものはすべて二眼レフかと思っていました。レフレックスの意味がよくわかっていなかったのです。
PaxM4の方ですが、予想以上によく写ります。フロントコンバージョンレンズをつけても、十分満足のいく質が得られます。繰り替えにしになりますが、1960年代以降の日本製のカメラは本当に高品質です。写真を撮ることに関しては「これでも十分」と思わせるほどです。もちろん1960年中盤以降、日本のカメラはTTL露出計内蔵、AE、オートフォーカスと進歩してゆくわけですが、このPaxM4が機械的な意味でのひとつの完成形ではないかと思うのです。
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