NewキャノネットQL19

 キャノネットは1960年代から70年代にかけてキヤノンから発売された、レンジファインダー付きレンズシャッターカメラのシリーズである。1961年発売の初代キャノネットはその破壊的な低価格で大きな話題になったらしい。あまりの安値ゆえに、業界から猛反発を受けたという逸話も残っている。しかし、安いからと言う理由で反発する業界というのはいったい何なんだろう。業界の反発で発売開始が延期されたという話もあるが、利益のでないような不当廉売でもなければ文句を言う筋合いでもないと思うがこのあたりはどうなのだろう。今なら絶対考えられない話である。「一週間分の在庫が2時間で尽きた」「2年半で100万台売った」というのはすべて、初代キャノネットの伝説である。初代キャノネットのケース付き20,500円と言う値段は今考えても確かに安い。ちゃんと2重像合致式連動距離計と4群5枚構成f1.9のレンズがついてのお値段である。当時なら十分中級機であっただろうキャノネットが2万円そこそことは大したものである。キヤノンのこの路線はおそらくAE−1やEOSkissに受け継がれているのだろう。

 さて、私のキャノネットであるが、初代ではない。NewキャノネットQL19と言うカメラで、1971年発売のカメラである。キャノネットは多くの種類のカメラが発売され、シリーズの構成もかなり複雑になっている。しかし、1965年発売のキャノネットQL17以降、f1.7のレンズを搭載した機種をフラッグシップとする3つのカテゴリーを構成している。実はこのキャノネットQL17は持っている。今は日本でお留守番をしているが、なかなかの存在感のカメラである。存在感のあるカメラというのは要は重くて大きいのである。驚いてはいけない、総重量830gもある。こいつをアメリカに持ってくることはできなかった。コンパクトカメラとは絶対に言えないだろう。しかし、写りはすばらしい。このキャノネットQL17をフラッグシップにするシリーズは、基本的に800g前後の質量を誇る重量級艦隊である。アクセサリーシューはあるがホットシュー化されてはいない。
 これが1969年発売のNewキャノネットQL17になると、ぐっと小型化され、ホットシューも装備されるようになり、一気に近代的なカメラになった。重量は620g。コンパクトカメラと言ってもいいだろうか?A−1のボディよりちょっとだけ軽い。と言うことはやはり結構重いのだが、この時代にしてはがんばった方だと思う。今回私が手に入れたNewキャノネットQL19はこのシリーズのナンバー2モデルである。f1.9のレンズだと、もうナンバーワンにはなれないのである。なんと厳しい時代だったのだろう。しかし、この時点で試作機ながらキャノネットQL14ができていたのだからコンパクトカメラ恐るべしである。
 3つ目のシリーズは持っていない。しかしこのシリーズがもっとも完成度が高く、現在でも人気の高いシリーズである。1972年発売のキャノネットG−IIIである。実は、ニューキャノネットからG−IIIへの変化はそれほどドラマチックなものではない。大きさも重さも同じ。バッテリーチェックとフラッシュマチックが加わったくらいで、どちらかというとマイナーチェンジである。しかし、10年にわたって発売されたのは驚嘆に値するのではなかろうか。結局オートボーイが登場し、ストロボ内蔵オートフォーカスが当たり前になるまで生き延びたことになる。

 キャノネットシリーズは基本的にシャッター優EEが搭載されている。コンパクトカメラにプログラムEEが主用されるのはもう少したってからである。シャッター速度は1/4秒から1/500秒。オートを解除すればマニュアル撮影もできる。そしてそもそもがメカシャッターのカメラなので電池が切れてもマニュアルなら完全に機能する。これはすごいことだと思う。今のこんなカメラを手に入れようと思ってもたぶん無理であろう。これ以上のサブカメラは存在しないのではないか。
 ちょっと不安になったので、とある文献を調べたらG−IIIは電池がなければまったく動かないと書いてある。ご丁寧に「出かけるときには電池を忘れずに」とまで書いてある。私はG−IIIを持っていないので何とも言えないが、なんか嘘臭い。キャノネットシリーズの中にはセイコーSEシャッターを使った完全電子制御のモデルもあるが、G−IIIは普通のコパルだから電池がなくても動くような気がする。コパルもエレクというのがあるが、G−IIIは普通の機械式シャッターのようだ。またしてもこの会社の本は嘘をついているのだろうか。ここで会社名を実名にすると思いっきり名誉毀損になるのでそんな危険なことはしないが、どうも中古カメラブーム以降登場した本には嘘、というか間違いが多すぎる。例のマニュアルキヤノンにも大きな間違いではないが、時代考証?にやや難があるところがある。NewFDってNewF−1からではなく、たしかAV−1からですよね。まあ、しかし私のサイトにも嘘がたくさん書いてあるので偉そうなことは言えない。タダなので許していただきたい。

 さて、私のキャノネットQL19であるが、リサイクルショップできわめて安いお値段で購入した。電池は入っていなかったがシャッターは切れるし絞りも動く。家に帰ってよくよく点検してみると、レンズの鏡筒がちょっとぐらついているし、巻き上げレバーが何回も回せてしまう。まずは鏡筒のぐらつきから手を入れることにした。最初はレンズを止めているカニ目がゆるんでいるだけだと思っていたら、じつはレンズボードごとぐらついていた。仕方がないのでシボ革をはがし化粧板もはずして、ボディの奥にあるネジを増し締めした。これでぐらつきは解消、巻き上げレバーもOKになった。ただし、シボ革をぼろぼろにしてしまったので、仕方がないので非純正の合皮を張ることにした。できあがったのが、このキャノネットQL19である。正面左側にあるQLの文字も出そうかと思ったが面倒くさくなってそのまま張ってしまった。ちょっと緑かかった革が何とも言えない魅力を醸し出していると思うのだが、いかがであろうか?少なくとも前回革張りをやったエディクサよりは評判が良かった。
 肝心の写りであるが、私はとっても気に入っている。ただ、このあたりは好みの問題なので気に入らない人もいるかもしれない。古い方のキャノネットQL17も好きだったので、どうやらキャノネットは私の好みにあっているようだ。キャノネットの写りはあまり好きではないと言う人もいるようなので、ここはひとつ「私の好み」と言うことにして許していただきたい。






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