アサヒペンタックスS2スーパー

 このカメラはEOS630をメインに使っていたときに、新宿のアルプス堂で衝動買いした物である。EOS630はいいカメラだと思うが、あまりにすべてがオートでできてしまうので、へそ曲がりな私はなにもオートがついていない、露出計すらついていない正真正銘のマニュアルカメラを買ってみたのである。ところでいま、「マニュアルカメラ」と言うと、どうも「マニュアルフォーカスカメラ」を指すらしい。「マニュアルカメラ」を扱った本にミノルタXDやキヤノンAシリーズが堂々と出ているところを見ると「マニュアル」という言葉は時の流れとともに変わってしまったらしい。ただ、「マニュアル」というと「マニュアル露出」を連想するのは私だけではあるまい。
 
 「マニュアル」といえば、我が国には「マニュアル言葉」なるものがあって、一部で話題になっている。ファーストフード系の店員などが、マニュアルに書いてある通りのことしか言わない、いっさい応用力がないと言うのが「マニュアル言葉」なのだそうだ。たとえば「いらっしゃいませ、こんにちは、ご注文お伺いいたします。はい、ビックマックセットが一点。以上でございますか?ご注文繰り返させていただきます。ビックマックセット一点以上でございますね?少々お待ちください。」の、このパターンをひたすら繰り替えす、と言うのがマニュアル言葉なのだそうだ。なにもビッグマックセット一点なら繰り返す必要はない。状況によって対応を変化させる応用力がまったくないのだ。しかし、それはそれとしても、日本のファーストフードの店員さんは優秀である。チップがないのにちゃんと笑顔で対応するし、基本的に客を不快にはしない。アメリカのファーストフードの店員ははっきり言ってめちゃくちゃだ。英語が堪能にしゃべれたら文句を言いまくっているだろう場面に、それこそ頻繁に遭遇している。客が並んでいてもおしゃべりを止めない、手が空いているのに注文を聞かない、カウンターに寄りかかったまま注文を聞く、言葉遣いが悪い(鼻にピアスの穴の開いた小娘に「はぁー?」なんて言われた日には血管がぶちきれる)ともかくひどいものだ。これが、チップを払う店になると逆に気持ちが悪いくらい愛想が良くなる。呼んでないのに様子を5分おきに見に来る、まだ食べ終わってない皿も下げようとする、もう帰ろうかと思っているタイミングでダイエットコークを注ぎにくる、そして素晴らしい笑顔の対応。はっきり言って過剰サービスなのだが、ファーストフードの店員の態度を考えれば、「チップくらいやるわい!」と言う気にもなる。アメリカはチップ社会だが、こいつらはチップなしではやっていけない。目先の利益(ニンジン)を見せないと、「人を不快にしない」という基本的なことすらできない。「別に賃金が増えるわけではないんだから、笑顔で対応する必要なんかないじゃん」と言うところだろうか?それに比べれば日本の「マニュアル言葉」なんて全然問題ない。「お客さんに気持ちよく利用していただく」と言うこの気持ち。このあたりに国民性が出るのだろう。私は日本が大好だ。

さて、ペンタックスS2スーパーだが、TTL露出計内蔵のSPが発売される直前(1962年)のモデルである。デザインもアサヒペンタックス(AP)から引き継いでいる直線的なちょっとレトロなデザインを引き継いでいる。ペンタックスのSシリーズは同じようなデザインとコンセプトを守りながら時代の流れに合わせて確実に進歩しているので、一眼レフの歴史を眺めるようで楽しい。その流れのなかで、S2スーパーは「露出計を内蔵していない一眼レフとしては完成の域に達している」と言えるだろう。クイックリターンミラーやペンタプリズムはもちろんだが、完全自動絞り、順算式自動復元のフィルムカウンター、1秒〜1/1000秒のシャッター速度等、その後15年ほどのカメラの基本性能を達成している。基本性能ではニコンFと比べても遜色ない。現在でも露出計を内蔵していない一眼レフカメラを作ろうとしたら、最高速のシャッター速度がもう少し速くなるくらいで基本的にはS2スーパーとさほど変わらないものが出来上がるだろう。
 シャッターはSシリーズのほかのモデルと同様横走り布幕フォーカルプレーンシャッターである。X接点は1/60と1/30の間にある。また、B(バルブ)のほかにT(タイム)があるのも時代を感じさせる。FPとXがあるので、フラッシュガンでもストロボでも大丈夫。そういえば、ペンタックのカタログでフラッシュ一式を見たことがある。60年代前半と言えばストロボよりフラッシュのほうが一般的だったのだろう。アクセサリーシューは当然ついていない。このカメラでストロボを使うために、私はわざわざサンパックのグリップタイプのストロボを買ったのだが、外付けのアクセサリーシューが出ていた。このあたりは、中古カメラ素人だったころのほろ苦い思い出である。
 S2スーパーは今更メインになるカメラではないが、下手に露出計がついていないから、世にあるすべてのM42マウントのレンズが不自由なく(そもそもが不自由なんだが)使えるのも魅力である。





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