SEARS AUTO500 TLS

 ブランド名であるSEARSというのアメリカでは有名なデパートである。私の家のすぐそばにも1件ある。車で15分の距離だ。あくまでスーパーではなくデパートである。デパートまで車で15分。それはそれは都会に住んでいると思われるだろう。しかし私は鹿やリスと一緒に住んでいる。うっかりすると熊まで出るらしい。ちなみにコロラド州のドライバーズマニュアルには「鹿に遭遇した場合の対処」と言う項目がある。対処と言っても大したものではなく、「逃げ切れなければ無理をせず轢き殺しなさい」と言う血も涙もない対処である。幸い私は鹿を轢いたことはないが、危なかったことはいくらでもある。
 アメリカで流通していたSEARSブランドのカメラは割と有名である。もちろんただのデパートにすぎないSEARSにカメラの開発能力があるはずがなく、実体は日本製のカメラのOEMが大半である。よく見かけるのはリコーのXRシリーズだが古いカメラになると何がなんだかわからないのもある。しかし、SEARSのOEM戦略はどうやら1980年代で終わったらしい。その証拠に今のSEARSにはカメラ売場すら存在しない。これも日本メーカーのブランドイメージが高くなった結果であろう。

 それでこのAUTO 500 TLSだがマミヤのカメラである。私はこのカメラを手に入れるまで、マミヤがSEARSにカメラをOEMしていたとは知らなかった。調べてみると1960年代にはマミヤからOEMを受けた機種が何機種かあったようだ。

 さて、私はこのカメラをマミヤ製のカメラと知って購入した。実はこれ、ちょっとしたいわく付きのカメラである。大した話ではないのだが、ちょっと面白い歴史がある。

マミヤプリズマット キヤノンOMレンズ付

マミヤファミリー

キャノネックス

マミヤオートルクス35


 ところでみなさんはキヤノンOMレンズと言うレンズを聞いたことがあるだろうか?オリンパスOMレンズではなく、キヤノンOMレンズである。キヤノンOMレンズは1961年に発売されたマミヤプリズマットと言う一眼レフに標準装備されて販売されたレンズである。1950年代から60年代に掛けてキヤノンとマミヤは提携関係にあった。正確に言うとキヤノンがマミヤの株を相当数保有していたらしい。その結果として、ネームバリューのあったキヤノンがマミヤプリズマットのために作ったのがキヤノンOMレンズである。
 その後キヤノンは1963年にキャノネックスというレンズシャッター式の一眼レフを発売する。キヤノンの一眼レフの方向性が今ひとつ定まらなかった頃の製品で、このレンズ交換のできない一眼レフキャノネックスはシリーズ化されることなく、早々に市場から消えていった。じつはこのキャノネックスのアイデアと技術はマミヤから移植されたもののようである。この時期キヤノンとマミヤの関係がどれほど親密であったかはわからないが、少なくとも1961年の段階でマミヤはプリズマットPHというレンズシャッター式のカメラを発売しているし、1962年にはマミヤファミリーというキャノネックスの原型となりそうなカメラが発売されている。マミヤファミリーはキャノネックスと同様にペンタプリズムの前面にセレン光電池がつけられている。また独自技術によるクイックリターンミラーと自動絞りが採用されていた。
 その翌年キヤノンからキャノネックスが発売されるが、同じ時期にマミヤからもマミヤオートルックス35というほとんどキャノネックスと同じ仕様のカメラが発売されている。実はこのマミヤオートルックス35と言うカメラはマミヤのサイトの博物館にも載っていない謎のカメラである。両者は外観上の細かな違いはあるが、ほとんど同じカメラといって良い。ただキャノネックスの方はわずか半年で生産を終了してしまう。総生産数は2万台に満たないらしい。どうも、キャノネックスに採用したコパルのシャッターにトラブルが多発したのが原因のようだ。しかしキャノネックスはキヤノンの一眼レフで初めてEE(AE)を搭載したカメラとして名を残すべきカメラである。「どちらの会社がキャノネックスを設計し生産したか」と言う正確な記録は残っていないが、どうやらキャノネックスはマミヤで作られたカメラのようである。マミヤオートルックス35がどうなったかは残念ながらわからない。
 キャノネックスは早々に市場を去ったが、1967年に売り出されたマミヤセコール528Lはキャノネックスの特徴をことごとく受け継いだカメラである。まずレンズがキャノネックス同じ3群3枚構成の48mmf2.8である。シャッターはどちらもコパル、シャッター速度も1/500〜1/15秒まで。露出コントロールはどちらもシャッター速度優先EEである。また、他のレンズシャッター式の一眼レフはほとんど例外なくミラーの後ろに遮光板をもうけているが、キャノネックスとマミヤ528Lはどちらも遮光板がない。ミラーが遮光板をかねているのである。キャノネックスと528Lの最大の違いはキャノネックスがセレン光電池使用の外光式オートだったのに対し、528LはCdS式のTTL露出計を使用していた。明らかにキャノネックスの後継機が528TLなのである。もっともこのマミヤセコール528TLも国内では発売されず輸出専用であったらしい。今回私が買ったSEARS AUTO500 TLSはまさにこのマミヤセコール528TLそのものである。

 さて、そのAUTO500 TLSであるが、なかなか面白いカメラである。露出制御はマニュアルかシャッター速度優先EE、レンズはSEARS/SEKOR 48mm f2.8が標準装備されている。マミヤセコールそのものである。マミヤセコール528TLは中央重点測光になっている。おそらくSEARS AUTO500 TLSも同じ仕様だと思うが、使ってみた感じでは中央部部分測光ではないかと思うほど極端に中央部に偏った測光分布である。そしてアクセサリーとしてフロントコンバージョンの広角と望遠レンズが付いてきた。これらのレンズは今となっては入手困難であろうからラッキーだったとしか言いようがない。望遠や広角レンズを使用する場合はやはり一眼レフが便利である。私は何台かフロントコンバージョンでレンズ交換ができる距離計連動カメラを持っているが実際のところピント合わせが面倒くさくてこれらの交換レンズを使うことはほとんどない。一眼レフならフロントコンバージョンでも安心である。ファインダーは暗い。ヘリコイドもちょっと重い。今となってはシャッター速度もやや寂しい。
 しかしそれらの欠点を差し引いてもSEARS AUTO500 TLSはなかなか魅力のあるカメラだ。なにより、キャノネックスの末裔であるところが私にとっては価値のあるところである。






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