アサヒペンタックス SP

 1964年発売の超ベストセラー、アサヒペンタックスSPは、TTL絞り込み測光の露出計を内蔵し、国内外で爆発的に売れたカメラである。このカメラの伝説も数多く、海外の著名人が多数使用していたのは有名な話だ。世界初の市販されたTTL露出計内蔵の一眼レフカメラはトプコンREスーパーだが、一般に広く受け入れられたのはペンタックスSPの方だった。SPは1960年のフォトキナでプロトタイプが公開され、そのときから話題になっていた。今の時代は発売直前まで、カメラの細かい仕様はわからないものだが当時はのんびりしたものだったらしい。どちらにしろ私が生まれる前の話だ。このカメラは本当に数多くのアマチュア写真家に支持されたようで、1970年頃のカメラ雑誌のフォトコンテストは大げさではなくほとんどの作品がアサヒペンタックスSPで撮影されている。ペンタックスにとっても「いい時代」だったのだろう。そのほかはミノルタSRT−101が若干、キヤノンはFTがほんの少数いるくらいだった。「カメラ雑誌のフォトコンテストに応募しよう」と考えるレベルのユーザーに(ハイアマチュアクラス)人気があったのだろう。ちなみに当時のカメラ雑誌は日本カメラ、アサヒカメラ、カメラ毎日の3誌が主流だった。雑誌というのは当然期待される読者の階層を意識して作るものであるから、この時代、カメラや写真は大人の趣味だったのだろう。若者向けの「CAPA」や「月刊カメラマン」が創刊されるのは1970年代の後半である。私事だが、実は創刊間もない「CAPA」のフォトコンテストで佳作に選ばれたことがある。当時は「サクセスストーリーの第一歩か?」などと思ったのだがが、マイナーなコンテストも含めて私が賞を取ったのはこれが最初で最後だった。まだ、写真はやめていないので最後かどうかわからないが、たぶん本当に最後だろう。多くのカメラ系ホームページには作例のページがあるのだが、私はやむを得ない場合以外は作例を載せていない。理由は「下手だから」である。人にお見せできるような写真がなかなかあがらないのだから仕方がないす。でも、いい写真が撮れたら載せてみたいという野望は持っている。まあ、当分は難しいだろう。
 SPはTTL絞り込み測光だが、わずかに先行したトプコンREスーパーは開放測光だった。そこでまた例によって「開放測光」対「絞り込み測光」の論争が巻き起こったのだそうだ。理論派のカメラファンというのは、全く論争の好きな人種である。これはもう開放測光の方が便利に決まっているのだから論争の余地なんかないと思うのだが、曰く「絞り込み測光の方が実際に絞り込むのだから露出は正確だ。」しかし、これは「論争のための屁理屈だと思うのは私だけではないだろう。1960年代後半はニコンとミノルタとトプコンが開放測光、アサヒペンタックスとキヤノがは絞り込み測光だった。しかし今にしてみればわかることだが、キヤノンもペンタックスもマウントの関係で簡単に開放測光には移行できないと言うお家の事情があったのであって、メーカーが「あえて」絞り込み測光を採用していたのではない。わざとやっていたらな「天晴れ」だが、すぐにはできないからやむを得ず絞り込み測光を採用したと言うのが実際のところだろう。その証拠に絞り込み測光のメーカーはすべて5年程度で技術的問題を解決し、早い時期に開放測光のカメラを市場に投入している。
 SPは絞り込み測光なので、露出を決定するためには、マウント左横の絞込みレバーを押し上げて絞り込まなければならない。この操作は開放測光になれているとわりと面倒くさい。しかも、CdSなので、お世辞にも迅速に反応するとは言い難い。特に、暗いところではメーターが安定するまでに結構時間がかかる。しかしまあ、この時代のカメラであるからこのあたりのお作法は「テイスト」と言うことにしたほうがいいだろう。いやなら使わなければいいだけの話である。今さらこのカメラを使うからには、この手順を楽しむくらいの精神的余裕が必要である。「ああ、60年代の人たちはこうやって写真を撮っていたんだなぁ」と思わず感慨に耽っているとシャッターチャンスを逃すこと請け合いだが、それを気にしないくらいの精神的余裕が必要なのだ。測光するためには絞り込まなければならないから、ファインダーは当然暗くなる。日中戸外では、ファインダーが真っ暗になるが、それを気にしてはこのカメラは使えない。
 測光分布はほぼ完璧な平均測光だから、必要に応じて露出計の指示する値から加減する必要がある。もっとも、平均測光で常に同じ分布で測光してくれるから、露出の癖をつかむことが出来れば、今の分割測光より補正は容易だろうと思う。分割測光は露出の補正が必要ないほど正確な値を出してくれるが、これでうまく合わなかったときの補正は測光方式が単純でない分きわめて難しい。もっともそうなった場合はどっちにしろ、単体露出計の出番となる。

まだ、このカメラは中古市場でも割と見かける部類である。SPFやESシリーズよりはタマ数が多そうだ。値段もそんなにしないから、ちょっと試しに使ってみることが出来ると思う。ただ、残念なことに露出計不調のものが多い。このカメラは露出計がなくても問題なく写真は撮れるが、アサヒペンタックスがあれだけ苦労をして組み込んだ露出計、なんとしてでも使ってみたいものだ。





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