アサヒペンタックス SPF

1973年に発売されたアサヒペンタックスSPFは、絞り込み測光だったSPをSMCタクマーレンズに対応させ開放測光出来るように改良したモデルである。M42スクリューマウントだったアサヒペンタックスはその構造上、開放測光への対応が遅れていた。スクリューマウントの場合は締め付け具合によって最終的なレンズの物理的な位置が一定しないため、バヨネットマウントのように絞りに連動するレバーをくっつけてレンズとボディの間で情報を交換するわけにはいかない。レンズの最終的な位置を一定にしなければならないのだが、スクリューマウントそのままでは困難である。そこで旭光学はきわめてアクロバチックな方法でこの問題の解決を試みた。まずレンズに位置決めピンを取り付ける。レンズをボディに取り付けるためにねじを回してゆくと最後の1周でこの位置決めピンがボディ側のノッチとかみ合うようになっている。ボディ側のノッチは位置決めピンと一緒に回りレンズは最終的にボディに締め付けられる。そして、このノッチと一緒にボディ側の絞り連動レバーが回転する。つまり、位置決めピンとノッチがかみ合ってレンズとボディに定点を提供し、これを利用してレンズの絞りを正確にボディに伝えるのである。文章で説明すると訳が分からないかもしれないが、実物を見れば一目瞭然である。

 アサヒペンタックスは1971年発売のESに、この新しいシステムを搭載した。ちょうどレンズにマルチコートを施すのと同時だったので開放測光に対応しているのはSMCタクマー、対応していないのはスーパータクマー以前のものと区別する事ができる。ちなみにSMCと言うネーミングはスーパーマルチコーテッドの略で、開放測光の仕掛けとは一切関係ない。私の知識はここまでだが、このSMCタクマーとスーパータクマーのネーミングによる絞り連動機能の区別には例外があるという話を聞いたことがある。つまり、スーパーの名で開放測光に対応したものか、SMCの名で対応していないものがあるらしい。ただ、私の知る限りは100%間違いなかったので、たぶん鵜呑みにしても大丈夫だと思う。買うときにレンズの後ろ側を確かめれば間違いない。そういえば、タクマーの名前の付いたKマウントのレンズをネットオークションで見たことがあるので、過渡期の製品は興味が尽きない。

 私がSPFを手にして、あらためて「開放測光は便利だ。」と感じた。私は律儀にペンタックスが発売した順番に忠実に「S2スーパー」、「SP」、「SPF」を購入した。SPからSPFの進歩は偉大である。いま、SPを使うときは「あえて不便を押して」という決意が必要なのだが、SPFは普通の今風のカメラを使うような感じで違和感なく使る。(と言っても私の「今風」というのはキヤノンNewF−1くらいを指す。)。やはりファインダーが暗くならないメリットは大きい。

ところがこのSPFの後継機が1974年11月発売のSPIIで、SPシリーズはまた絞り込み測光に戻ってしまう。開放測光を達成するために多大な苦労をしたのになぜ、あっさりSPIIで開放測光をやめたのだろうか?実はこの問題、ずっと疑問に思っていたのだが、先頃氷解した。答えはすごく簡単であった。実はSPIIはSPFの後継機などではなく、SPの後継機だったのだ。当時の主なカメラ市場であった北米市場やヨーロッパ市場ではSPIIはSPF発売前に、SPの後継機として1971年に発売されているのだ。SPIIとSPの違いはホットシューがあるかないかくらいで、ほとんど同じ、いわゆるマイナーチェンジ版である。また、海外市場では日本にはないSPのバリエーションがたくさん存在していた。最高速シャッター速度を1/500に落として値段も下げたSP500、特定のストロボに対し連動機能を有するSPIIa、ブランド名が違うハネウェルペンタックス等々。わたしはSPとSPFそしてSPIIしか知らなかった。
 ではなぜ旭光学は日本市場に対しSPFの後継機のようなタイミングでSPIIを発売したのであろうか?あくまで推測だが、在庫処理の意味合いが強かったのではないかと思う。Kマウントへの移行を計画し在庫としてあったSマウントのレンズを処理するにはSPIIは適当なボディである。国内では販売されていなかったから、新製品としても十分通用する。私の記憶ではSPIIは1977年版のカメラショーのカタログにも載っていた。ちょうどMXやMEがKシリーズの取って代わった時期と一致する。在庫処理の色が濃厚とはいえ、Kマウント第二世代の時代まで生き残っていたSPはやはりすごいカメラだったと言えるだろう。ライカIIIgやニコンFに匹敵する息の長さである。


 ちなみに私のSPFは黒である。黒のSPFは珍しいと言う話を聞いたことがあるが、私は例によって手頃なお値段で手に入れた。角の塗装が落ちているのはご愛敬、値段が値段だからから文句を言ったら罰があたる。おでこの傷は私が付けたものだ(^_^;)。このカメラは日本で購入し、わざわざアメリカまで持ってきた。Aシリーズの次に好きなカメラがアサヒペンタックスのSシリーズである。

 SMCタクマーはさすがに古いレンズで過大な期待は禁物なのだが、なぜか私は好きだ。たぶん発色が私の好みにあっているのだろう。カラープリント主体の私だが、タクマーの色は私の嗜好に合っているようだ。




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