キヤノン T−70


シャッター優先AEと3種類のプログラムが付いたTシリーズの中堅機種である。私はこれをe-bayで落札した。ボディとレンズにはUS.NAVYの刻印がある。金属カメラなら刻印も様になるのだが、プラスチックのT−70は刻印の箇所が白くなっているだけで、今ひとつ趣がない。

実は私はTシリーズにはあまり興味がなかった。さすがにT−90は欲しいと思うが、それ以外のTシリーズのカメラには「どうしてこの時期にこんなカメラを作ったのか?」と問いたくなる。T−50はまあいい。オートボーイの一眼レフ版を作りたかったと言う意図は理解できないことはない。難しいのはいやだけどレンズ交換はしたいと言うニーズは常に存在し、現在でもEOSKissクラスのカメラに受け継がれている。初心者向けと思われていた絞り優先AE専用機でもなお難しいという人たちに一眼レフを普及させたのは多分このクラスのカメラだろう。
 T−80についてはあえて言及しない。時代の要請だったのかもしれないし、名機EOSを生み出すために必要な過程だったのかもしれません。

 さて、T−70だが、位置づけとしてはAE−1Pの後継となるべきカメラなのだろう。初心者向けのAV−1はT−50が吸収し、AE−1とAE−1Pの後継がT−70、そしてA−1の後継がT−90と言う感じではないかと思う。
 T−70はキヤノンAE−1Pから遅れること3年の1984年4月に発売された。Aシリーズと違い見るからにプラスチック丸出しのボディはTシリーズの特徴だが、好みの分かれるところだと思う。性能的にはキヤノンらしくシャッター速度優先AEとプログラムAE。これだけならAE−1Pと同じになってしまうが、3年間の進歩はプログラムAEに反映されている。AE−1Pでは、プログラムラインはひとつだったが、T−70はノーマル、テレ、ワイドの3種類のプログラムラインを選べるようになっている。テレプログラムはシャッターが高速寄りに推移するように組まれており、ワイドプログラムは寄り低速寄りに推移するようになっている。この仕組みがさらに進歩するとレンズの焦点距離を自動的に読みとって最適なプログラムを選んでくれるようになるのだが、T−70は底までは行ってない。T−70の場合は割り切ってテレ、ノーマル、ワイドの3種類、手動切り替えで対応している。また、測光分布も中央部重点平均測光か部分測光をスイッチひとつで選ぶことができるのも大きな進歩である。さらに部分測光にすると自動的に露出ロックがかかるようになっている。露出補正が必要な場合には便利な機構である。こうやって性能だけ見るとAE−1Pの機能強化版に見えるのだが、操作感覚は全く異なる。まず、ダイヤルが一切なく、すべての操作をスイッチかボタンで行う。たとえば、モードを切り替えるときは左手でモードボタンを押しながら右手でUP−DOWNボタンを押すことになる。慣れの問題かもしれないがはじめは違和感を感じる。

 私のパターンからゆくとシャッター優先がメインになり時々プログラムAEという使い方になる。しかし、実際使ってみるとT−70のシャッター優先AEはあまり使いやすくない。シャッター速度のプッシュボタンで変えなければならないのだが、慣れの問題とはいえなかなかなじめない。
 プッシュボタンを初めて採用したのはペンタックスMEスーパーである。このカメラでプッシュボタンを使うのはマニュアル露出の時だけだから、それほど操作性は悪くないそうだ。しかし、T−70の場合はモードの切り替えやシャッター速度の切り替えをすべてボタンでやらなければならないのでちょっと話が違ってくる。操作性としてはダイヤルの方が明らかに楽であることは間違いない。T−50のようにプログラム専用ならボタン操作でもかまわないのだが、シャッター速度をボタンで入力するのはあまりいい方法とは思えない。シャッター速度優先AEからプログラムAEに切り替えるときも、モードボタンを押してからUP−DOWNボタンを押さなければならず、AE−1PやA−1に比べると操作が煩雑である。AE−1PやA−1ならファインダーを覗いたまま、右手だけでシャッター速度優先AEからプログラムAEへ移行できるが、T−70ではいったんファインダーから目を離して液晶パネルを見ながら、両手で操作しなければならない。また、ファインダー内の表示もやはり絞り値のみで、シャッター速度は軍艦部の液晶パネルを見なければならない。決して悪いカメラではないと思うののだが、AE−1Pの後継機として登場するにはいささか寂しいような気がする。AE−1Pより、進歩しているのは3種類のプログラムと部分測光くらいではないではなかろうか?ワインダーもひとこま0.7秒で明らかにAシリーズに比べて遅い。まあ、外付けワインダーと内蔵のワインダーを同じ土俵で比べてはいけないのだろうが。

 とネガティブな印象を持って、ふとサンダー平山氏の「中古カメラ買い方ガイド」のT−70のところを見て「なるほど」と思った。氏曰く、「T−70はT−50に3タイプのプログラムAEをくっつけたもの」、「このカメラを使うこつは3つのプログラムAEを上手に使い分けること」、「そのほか、キヤノンらしくシャッター速度優先AEもつかえる。」なるほど、このカメラのメインモードはシャッター速度優先AEではなく、プログラムAEで、シャッター速度優先AEはどちらかというと付属的なものなのか。本当かどうかわからないが、そう思うと納得できる部分もある。よく見るとキヤノンのロゴの下にも「MULTIPLE PROGRAM AE, DUAL METERING SYSTEM」と書いてある。

AE−1Pは明らかにシャッター速度優先AEにプログラムを付加したものだが、T−70はアプローチが全く逆だったのかもしれない。そうなるとはじめの仮定であった、AE−1Pの後継機種という位置づけも怪しくなってくる。しかしその結果がスペック的にはAE−1P大差のないカメラになってしまったのはT−70にとって不幸だったのかもしれない?

T−70はかなり人気のあったカメラのようだ。T−70を使っている方はやはりプログラムをメインに使っているのだろうか?






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