リコーXR−2s
カメラを手に入れるなら、まずボディとレンズが普通である。この二つがなければ写真は撮れない。カメラが写真を撮るための機械である以上それはごく当然のことである。しかしながら、写真が趣味なのかカメラが趣味なのかわからない状態になってくると、カメラ以外のアクセサリーが何となく最初に手に入ってしまって、それに合わせてボディを買うという「本末転倒」なことがおきるようになってくる。アクセサリーを友達にもらうこともあるし、特定のアクセサリーが激安で、ボディを持っていないのにおもわず買ってしまって後悔することもある。しかし、ここで後悔してはいけない。人生前進あるのみなのだ。
というわけで、リコーXR−2sはワインダーが一番先に手にはいり、その後ボディとレンズがやってくるという、中古カメラ中毒者らしい順番でそろっていった。当時私が住んでいた家から車で1時間ほどのところにあるデンバーで春と秋にカメラのトレードショーがあり、私は毎回欠かさず散財しに行った。松屋の中古カメラ市よりは小規模だが、アメリカの田舎のカメラトレードショーらしくプロから素人まで幅広く出展しており、ときどき極端に安いものがあるので目がはなせない。2001年の春、私は勇んで早朝より会場に向かい、開場と同時に会場内に入ることができた。会場内を一回りしてから、私はとある店で小物(レンズキャップやフィルター)を合計$12ほど買った。手元に小銭がなかったので$20出したところ、どうやら店の方の準備がまだ出来ていなかったらしく、お釣り$8出てこなかった。そこで店主が画期的な提案をしてきたのだ。「このワインダー$8でどうだ?」それがリコーXRワインダーだった。XRシリーズは持っていないので買っても仕方ない。しかし$8なら十分安いだろう。リコーXRシリーズは実は前から興味を持っていたカメラで、一応ネットオークションでチェックしていた機種なのでいつか手にはいるかもしれない。そのときワインダーを手に入れようと思ったらそれこそ至難の業であろう。カメラとレンズはがんばれば手に入らないことはないが、マイナーな機種のワインダーなどは出会って即買わないと次にお目にかかるのは10年後かもしれない。ここは「念のため」に買っておいても損はないのではなかろうか、しかも$8だし。というわけで、このXRワインダーはお釣りの代わりに私の物になった。
買ってしばらくは良かったのだが、そのうち「このワインダーは本当に動くのだろうか?」と言う疑問がわいてきてどうしようもなくなってきた。持っているのもは使ってやらなければ可哀想だ。もし壊れているのなら持っていても無駄である。結局、2ヶ月もたたないうちにネットオークションでXR−2sを落札することになってしまった。
ひょんなことから手に入ってしまったカメラであるが、このカメラは発売当時から気になっていたカメラであった。私が初めて一眼レフに興味を持ったのが小学校5年生の時、当時はアサヒペンタックスがSシリーズからKシリーズに以降を遂げていた頃であり、カメラ屋さんの店頭からもらってきたペンタックスのカタログにはK2DMDがフラッグシップとして掲げられていた。「格好いい!」とは思ったものの、当然小学生の手に入る代物ではなく、またK2DMD自体割と短命なカメラであったため「ただの夢」で終わってしまった。そしてその後のMシリーズはなぜか良いとは思わなかった。さて、XR−2sであるが、カタログ上の性能はK2DMDによく似ている。メーター式のファインダー表示やマニュアルと絞り優先AEの組み合わせは当時の中上級機の一般的なスペックとはいえ瓜二つである。しかも、XR−2sは十分購入対象に出来る値段であった。私がA−1を買ったときも、XR−2sをダークホースで押さえていた。A−1のボディとレンズを買うお金でXR−2sなら望遠レンズも買えてしまう。望遠レンズは子どもにとっては魅力的なアイテムであった。そんなわけで新品で買うことはなかったが、巡り巡って私の手に入ったカメラである。
リコーは戦前からカメラを作っているメーカーで、70年代前半まではM42スクリューマウントを採用しており、アイレベルとウェストレベルを切り替えられる(交換ではない)リコーTLS401というユニークなカメラを出していた。70年代中盤以降はペンタックスが公開したKマウントを採用し普及機クラスの値段でカメラを作るようになり、当時としては一眼レフ最安値だった\39,800のリコーXR500などを出していた。XR500は完全な追針式マニュアルで、シャッター速度は1/500秒まで。それではあんまりなので、シャッター速度の範囲を1秒〜1/1000秒に拡張し、ファインダーの表示をより高級にしたXR−1、絞り優先AEを加えたXR−2も相次いで発売された。XR−2sはXR−2のマイナーチェンジバージョンで、ワインダーがつけられるようになっている。ちょうど、AE−1に端を発するワインダーブームに乗っかった形であった。リコーがKマウントを採用したのは結果的には大成功であった。多くの人が「Kマウントのレンズが使えるから」と言う理由でリコーのカメラを選んだ。今ではペンタックスでさえは純粋なKマウントではなく、リコーもRKマウント(リケノンPシリーズ)になっているので100%の互換性はないのだが、リコーが一眼レフカメラメーカーとしてここまで生き残った大きな理由がKマウントの採用であったのは間違いないだろう。
さて、肝心のカメラの方だが、外側は総プラスチック、塗装なしなので、手に取ってみるとちょっと安っぽい。もっとも、現役の時から本当に安かったのだから文句を言ってはいけないだろう。高いくせに安っぽく見えるものは言語道断だが、安いものが安っぽく見えるのはかまわない。安いものが高そうに見えれば一番良いのだが、それはちょっと胡散臭い。表側は安っぽそうだが、中身はかなり良いのではなかろうか?ファインダーは明るくてメーター表示もとっても見やすい。シャッターは小刻み巻き上げが出来ないところからコパルスクエアではないかと思う。実はこのページを作るためにネットでXR−2sの情報を集めようとしたのだが、肝心のリコーのサイトにも何も情報が出てこない。カメラ関係の本にもあまり載っていない。よって、このページに書けるのは本当に私が使ってみた感想でしかないのだが...私は良くできたカメラだと思う。もちろん、当時の他のメーカーのフラッグシップにはかなわないが、コストパフォーマンスの高い実用機としては非常に優れていると思う。リコーは肝心な部分で手を抜かないメーカーのようで、かのサンダー平山氏も、名著「中古カメラ実用機買い方ガイド」のなかでメーカーとしてリコーのことを褒めている(XR−2sについてではないが)。
ワインダーはかなり騒音が高い。元々こうなのか経年変化でこんな音になったのかわからないが、静かなところでなくてもちょっと躊躇するほどの音である。まあ、総じて言うなら値段の割には良くできたカメラであると思う。
そのリコーもAFに手を染めずにがんばってきたが、ついにデジカメにすっかり移行してしまった。XR−10PFはおもしろそうなカメラなのでチェックしているのだが、手にはいるかどうか。また一つ一眼レフメーカーがなくなったのは残念で仕方がない。