キヤノンA−1

 というわけで登場するのがキヤノンA−1である。幼少の頃から貯めたお金はA−1に変わってしまった。当時私が住んでいた町には今で言う「カメラの量販店」というようなものは存在しておらず、限りなく定価に近いお値段で購入せざるを得なかったのを覚えている。望遠レンズやワインダーも欲しかったのだが、そこまでは予算が回らずストロボ(177A)とF1.8の標準レンズでスタートしたのだった。A−1は最高だった。これ以上のカメラは存在しないだろうと思いながら撮影していた。今でも覚えているが、ファインダーでピントが直接確認できる快感は、コンパクトカメラから流れてきた者にしかわからない感動である。レンズは標準1本で1年ほど粘ったのだが、さすがに交換レンズが欲しくなり、とりあえず「質流れ市」でFL用のテレプラスを激安で購入して実絞りAEの実力を遺憾なく発揮させていた。「望遠レンズが欲しい」という私の欲求は当然のごとくフツフツと沸きあがってきた。特に望遠系のズームに魅かれていた。当時(1981年)FDシリーズは望遠系ズームが充実する直前で、200mmを含むズームレンズは80−200mmF4だけだった。回転式のズームでいまだに語り継がれる名レンズなのだが値段も大したモノで定価ベースで100,000円もした。明らかに予算オーバーである。レンズ専業メーカーなら5万円でおつりがくる。しかも直進式ズーム、ただし締め付けリング。実際には大した違いではないのだが、当時は今以上に純正にこだわりがあったようだ。そうやって悩んでいるうちにキヤノンから70−210mmF4が62,000円で発売になった。もはや悩む必要はなくなった。もし焦ってシグマのレンズを買っていたら後悔したんだろうな、と思う。

 高校卒業のときにシグマの28mmを買い、翌年に中古でパワーワインダー2を買い、私の装備品は充実してきた。CPEで2800円だったカメラバッグもそろそろ買い替えか、と思っていた矢先、私のカメラは置き引きにあってしまったのだった。ちなみに悪いのは私ではなく、先輩に貸してその先輩が置き引かれたのだった。1985年の春のことだった。