キヤノン EOS630
SAMURAIに飽きた私は次なるカメラを模索していた。やはりまともな一眼レフが欲しい。就職して若干ではあるが金銭的にも余裕が出てきた頃で、新品の新製品に絞ることにした。1989年のことだったので、当然オートフォーカス一眼レフがターゲットになる。その時手元にあったカメラはSAMURAIだけだったので、私はいわゆる交換レンズの類はひとつも持っていなかった。それは、とりもなおさず一切のしがらみを捨てて、自由な気持ちでカメラを選ぶことが出来るということである。別にキヤノンにこだわる必要もなかった。そこで、すべてのメーカーをチェックし比較検討し厳選した末に最後に残ったのが「MINOLTAα−7700i」と「キヤノンEOS630」だった。どちらも第二世代のAF一眼レフであった。MINOLTAはα7000でAF一眼レフ市場を切り開き牽引し、まさにAF一眼レフのパイオニアメーカーとして君臨していた。α7700iは、絶好調のMINOLTAが世に送った第二段である。MINOLTAの好調は、この後ハネウェルに賠償金をタカリ取られるまで続くわけで、まさに「我が世」の最中のカメラである。当然悪いカメラであろうはずがない。AFの合焦速度もα7000に比べて格段にアップしているという話である。そしてなにやらカードを買って挿入すると性能がアップするという、「オリンパスOM10とマニュアルアダプター」のような、消費者の心をくすぐる工夫もなされていた。対するキヤノンも、最初こそαに水をあけられていたが、EOS650、620で完全に追いつき、第二世代を投入していた。EOS630はα7700iがカードを挿入することによって達成していた機能を、はじめから内蔵していた。合焦速度も前作に比べて50%程度早くなっていた。これはもう、「甲乙つけがたし」である。
さて、それではどうしてEOSにしたかというと、結局「キヤノンだから」が理由である。αの方がどこか優れていれば、あるいは私のハートに訴えるものがあればおそらくαを選んでいたと思う。でも、どちらにもアドバンテージを感じなかったのだ。それなら、迷うことはない。「キヤノン」である。
EOS630はいいカメラなのだが、思ったより頻繁には使わなかった。学生時代と比べてカメラを持ち歩く機会が減ったのも一つの理由だが、630にも原因があったと思う。630はその後のEOSと比較してやや操作が煩雑であると思う。すべての操作が「なにかのボタンを押しながらダイヤルを回す」という手順になっており、これをなかなか覚えることが出来なかった。単に私が歳をとっただけかもしれない。A−1のころは簡単に越えることができた操作上の壁を、630ではなかなか越えることが出来なかった。
EOS630はその後も細く長く使いつづけ、シャッターゴムの劣化にもめげずに21世紀まで生き抜いたが、最近になってどうやら漏電が起きるようになり、防湿庫の主になってしまった。α7700iの方は、最近値崩れしたのをなんとなく手に入れて使っている。手元にある数少ないAF一眼レフのうちの一台なので、割と稼働率がよかったりしている。まあ、なんというか人生皮肉なものである。