怪しいカメラ

 私は日本にいた頃は学研の「中古カメラゲット」やその他の中古カメラの本、ムックをこよなく愛していた。私の財政を圧迫するくらい好だった。しかし、アメリカに来てからと言うもの「中古カメラゲット」は当然手に入らない。知らないうちに「カメラゲット」に名前が変わっていたのを知ったのは最近である。ちなみに「中古カメラゲット」は創刊号から買っていて、季刊だった頃ももちろん知ってる。
 アメリカに来てしまってからは仕方がないのでシャッターバグを定期購読することにした。ここで言う定期購読というのは書店に申し込むのではなく、会社の方に直接申し込んで毎月郵便で送ってもらう定期購読である。ド田舎に住んでいるのならともかく、直接定期購読するなんて送料の無駄!と言うのは日本でのお話。アメリカでは毎月買う本は定期購読を申し込むに限る。なぜか?その方が安いのである。シャッターバグは1冊$3.95、それを12ヶ月続ければ、単純に$47.40。日本なら、この金額プラス送料で、定期購読が成立する。しかし、アメリカでシャッターバグ定期購読のお値段は1年で$19.95(含む送料)。毎月買う金額の半分以下で定期購読できてしまう。しかしこれはシャッターバグだけの話ではない。例えばニューズウィークは1年間書店で買えば$106.65、これを定期購読すれば$21.33。思わず読まなくても定期購読してしまうようなお値段である。これで雑誌が日本語で書かれていれば本当に何の文句もでないのだが、残念ながらこれらの雑誌は英語で書かれている。
 なぜこのような、非常識とも思える値段が成り立つのかというと、どうやら広告収入が原因らしい。雑誌の広告というのは当然ながらたくさんの人に見てもらわなければ意味がない。テレビの広告も視聴率によって値段が違ってくる。アメリカの雑誌はどうやらこの定期購読者の数によって広告収入が変わるシステムらしい。そうなれば、出版社としては多少損しても、多くの定期購読者を確保している方が結果的に広告収入アップにつながり、儲かるのである。

 さて、私はシャッターバグの他にも時々カメラの雑誌を買う。2002カメラバイヤーズガイドなんて言うのは私の心をつかんで離さない。でもやはり英語がハードルとしてそびえたっている。しかし英語の雑誌でも広告だけはストレスなく読めるから不思議だ。ある日、そのバイヤーズガイド(の広告を)をぱらぱらと眺めていると、なにやら怪しげな広告が目に留まった。お店の名前は「Cambridge」。あまり聞かない名前だ。その広告の中でも特に私の目に留まったのはこの広告である。「CambronTTL、35mm一眼レフ、レンズ交換可能、ユニバーサルスクリューマウント、内蔵CdS露出計、セルフタイマー付き、全金属製、ボディのみ$79.95」。どうもこれは新品らしい。それにしても安い、しかし怪しい。ちなみにレンズ付きで$99.95。これはいったいどんなカメラなのだろう?その日はとりあえず、広告を見ただけで終わったが、この広告を私の心に錨のように、重く沈んだのだった。
 翌日よく見ると、このお店、ウェブサイトを開いている。早速チェーック。なかなか凝った作りにページに、CambronTTLが紹介されている。

The Cambron TTL is a true 35mm Single Lend Reflex Camera with Through-the-Lens Focusing. Interchangable Lenses with Standard Screw Thread, Eyelevel Focusing, Built-in PentaPrism...The Works! None of your Plastic body or plastic gears. The Cambron TTL has and all-metal body of airplane alloy metal. The gears are machined and set in Rhesium bushing s like best Swiss watches.

通常広告というのはその製品の良いところを説明するものである。限られたスペースに嘘にならないギリギリのところを追求してその製品をほめるのが広告である。さて、それではこのCambron TTLはどうであろう。
 「Cambron TTLはレンズを通った像でピントを合わせる本当の35mm一眼レフです。」
 本当もなにも35mm一眼レフを名乗る以上レンズを通った像でピントを合わせるのは当たり前である。ペンタプリズムやクイックリターンミラーがなかった時代でさえ、一眼レフのピントはレンズを通った像で合わせている。
 「標準スクリューマウントによる交換レンズ、アイレベルフォーカシング、ペンタプリズム内蔵」
 ちょっと待て!アイレベルフォーカシング?ペンタプリズム内蔵?ひょっとしてこの広告は1940年代後半のモノだろうか?今の時代、ペンタプリズムなど内蔵していない一眼レフカメラを探す方が難しい。アイレベルフォーカシングって、ペンタプリズムがあれば当たり前。ひょっとしてF−1並にファインダーを交換できるのだろうか?いやそんなことは絶対あり得ない。こうなると標準スクリューマウントもあやしい。当然M42だと思うのだが、M42の文字もプラクチカの文字もペンタックスSの文字もない。あるのはStandardの文字だけ。余談になるが、私は「標準」とか「普通」と言う言葉に強い警戒心を持っている。要は人間の数だけ「普通」が存在するのである。昔見たテレビに、田舎から出てきて一人暮らしをしながら都会の高校に通っている女の子の下宿に親とレポーターがガサ入れするというの番組があった。結果は予想通り、パンツ1枚の男の子がベッドから出て来るという始末であった。怒った親に対して子供が言った言葉、「普通だよ、これくらい。」どの口がそれを言うか!!かように「普通」とか「標準」という言葉は容易に信じてはいけない。もしかするとこのカメラのマウントも天体望遠鏡用のTマウントかもしれない。しかし、それでも文句は言えないのである。「いや、うちではこれが標準なんです」と言われたらそれまでである。
 のこりは機械式金属製のボディの自慢である。終いには言うに事欠いて「航空機用の合金」とか「最高級スイス製の時計のよう」とまで言っている。うそくさい、怪しいもんだ。
 ところで、この広告(と言っていいレベルかどうかわからないが)を読んでいて、ふと思ったのだが、内蔵式メーターについては全く言及されていない。雑誌の方には内蔵cdsメーターと書いてあるのに、である。私はカメラの名前でもあるTTLというのは当然TTL連動露出計が付いているからだと思った。しかし、このTTLはレンズを通ってきた像でピントを合わせると言う意味だけで、どうやらメーターはTTLではなさそうである。カメラの名前がTTLなのに、きっとこいつはキヤノンFX並の非TTLメーターを内蔵しているのだ。そういえば不鮮明な写真の向かって左肩にそれらしい受光部が見える。レンズ交換用のボタンにも見えるが、こいつは「標準スクリューマウント」なのだ。レンズ交換用のボタンなんて必要ない。いやいやそれだけではない。ペンタプリズム内蔵を謳っているのに、クイックリターンミラーについての記述がないのはがないのはどういうことだろう?ひょっとしてシャッターを切ったら次の巻き上げまでブラックアウトするのだろうか。それとも、さすがにクイックリターンミラーは言うまでもない、当たり前の仕様だったのだろうか?これも安心できない。

 このトンでもカメラ、Cambron TTLであるが、キット販売されており色々バリエーションがある。プロキットと名付けられたキットには28−200mmのズームがセットになっているらしい。それにしてもこのカメラをしてプロキットとは傲慢な名前だ。さらに、Zeiss Tessar80mmf2.8が付いているパターンもある。これで、$149.95なのだ。いったいどんなTessarなのだろう。おなじく自社製のCambron85mmf2付きは$229.95である。どうしてTessar付きが$149.95でわけの分からないCambron付きが$229.95なのだろう。ますますわからない。

 幸い私はまだこのカメラに手を伸ばしてはいない。値段はとてつもなく魅力的だがあまりにリスクが大きすぎる。しかし、正直に言うと怖いモノ見たさを押さえるのに必死なのだ。本当にミラーはクイックリターンするのだろうか?TTL露出計は付いていないのだろうか?ちなみにこのショップは海外通販も行っている。興味のある方は是非アクセスしていただきたい。そしてもしパチンコか競馬で大勝ちして魔が差してしまったら、結果を私にレポートしてください。

www.cambridgeworld.com

いったいどんなカメラなのだろう?






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