アメリカカメラ事情 その1 アメリカ人の持っているカメ


私はどこで暮らしていても他人のカメラが気になる。それはアメリカに来ても同じだ。一眼レフとおぼしきカメラを持っている人がいたら、忍び寄ってこっそりカメラとレンズを確認して戻ってくる。そのようにしてアメリカで一年以上、他人のカメラをウォッチングして得た結論である。


「アメリカ人は物持ちが良い」


 これはもちろんあくまで私が個人的に得た印象である。場所によっても違うだろうと思う。私が住んでいるコロラドスプリングスとニューヨークやロサンゼルスあたりの大都会ではまた違った結果になるとは思う。私が住んでいるコロラドスプリングスはアメリカでも中規模の都市で、ロッキー山脈のふもとで比較的穏やかな街である。その街でお父さんやお兄さんが何かのイベントのときに持ってくるカメラは、大半が70年代から80年代の普及機なのだ。例を挙げると、ペンタックスME、MEスーパー、キヤノンAE−1、ミノルタSTR−201。カメラ好きの同僚が持っているのがT−90。エアショーに行っても最新式のオートフォーカスカメラはほとんど見かけない。オートフォーカスがあっても普及機ばかりで、EOS−1シリーズやニコンF5はここでは一度も見ていない。日本でエアショーや航空祭に行けばそこは最新式のカメラの展示会のようになる。大砲のようなレンズを付けたカメラを持って脚立の上から撮影するのは日本だけの光景らしい(私はやったことはないが)。そしてアメリカで、ちょっと古めのカメラを持っているおじさんが付けているレンズは判で押したようにレンズ専門メーカーの標準系ズームなのだ。メーカーはVivitorが多い。


 彼らについて言えることは、見かけにこだわらない実用主義だということだ。「サービスサイズを主用するのに高いレンズは必要ない。手でピントが合わせられるのだから、オートフォーカスはそれほど重要ではない。まだ使えるのだから少しくらい古くても構わない。」彼らのカメラからそう言うポリシーが感じられる。
 余談になるが、私の家内はキヤノンのEOS630を使っていたのだがアメリカで故障したため、現地で新しいEOSを買った。Rebel2000というモデルで日本名はKISS III。ただ、Rebel2000にはKISSIIIについているパノラマ機能はついていない。アメリカ人は使うかどうか分からないパノラマ機能にお金を払うようなことはしないらしい。付加機能をてんこ盛りにして値段を吊り上げる日本式の売り方とは根本的に違うようだ。

 この傾向は何もカメラだけではない。たとえば私が日本から持ってきたパソコン用のプリンター。EPSON PM-670Cというモデルで、買ったばかりだったのでわざわざ送料をかけて持ってきた。しばらくしてインクがなくなったので近所の電器屋に買いに行くことになった。私のとまったく同じデザインのプリンターがアメリカにもあり、当然同じモデルだと思ってそのプリンター用のインクを買ってきた。ところが合わない。私のプリンターは日本では安売り対象の普及機だったのだが6色インクを使ってる。アメリカのモデルはなんと3色インクを使っているのだ。確かにアメリカのモデルは日本よりはるかに安い。ただ、明らかに品質を落として値段を下げているのだ。私のプリンターと同じインクを使ってるプリンターは、もっと高級機でプロかハイアマチュア用と位置づけされているモデルだった。いわゆる低品質低価格である。しかしここでちょっと考えてしまった。私が実際にその6色インクのパワーを使っているかというとこれは大いに疑問である。主にモノクロ、時々しかカラーを使わない私のようなユーザーには、6色インクはまさに「猫に小判」かもしれない。でも、日本では私のプリンターは普及機だったのだ。

 日本でキヤノンEOS−1vを買うユーザーは秒間10コマのモータードライブを重視すると言う話を聞いた。確かに秒間10コマはすごいスピードだと思う。36枚撮のフィルムを4秒弱で撮り終えてしまう。「ちょっと欲しいな」と思う私は日本人である。多くのアメリカ人はそのすごい機能を「スゴイ」と思っても欲しいとは思わない。なぜならその機能を必要としていないことがよくわかっているからである。彼らは使わない機能にお金は掛けないのだ。

 その徹底した合理主義が良いことなのかどうかというと、これは難しい問題である。おそらくアメリカのカメラ業界が日本製カメラに駆逐されたのは、合理主義に徹するあまり付加機能を求めなかっただろう。いらないと思った機能が実は将来花開く可能性はいくらでもある。ハネウェルが作ったオートフォーカスモジュールに将来性を見出したのは日本企業だった。日本企業にとってラッキーなのは最新式の付加機能に価値を見出してくれる日本市場があったことだ。ウォークマンだってサブノートパソコンだってその小ささに価値を見出す国民がいなければ、市場に登場し得ない商品である。そしてそれが商品として完成し大量生産され安い値段で流通しはじめるとアメリカ市場も反応し始める。でもその時慌てて作ろうと思っても最新式の機械は急に作れるわけではない。日本企業はアメリカ向けによけいな機能を削ってさらに安い製品にすればいいだけである。
 ちなみにアメリカではMDはまだほとんど普及していない。MDがカセットテープ並みの値段になればアメリカでも爆発的に普及することだろう。

 アメリカ人は物持ちが良い。古いカメラがまだまだ現役で使われている。と言うわけで私も堂々とキヤノンAシリーズを持って闊歩できるのである。






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