ボディ派?レンズ派?

 一眼レフやレンズ交換が可能なレンジファインダーカメラを使っている人にとって、交換レンズは大切なアイテムである。しかし、あなたにとって一番大切なのははたして

レンズだろうか?ボディだろうか?

 

いやもちろんボディとレンズ、両方とも大切なのはわかっている。ボディにしろレンズにしろ単体で存在してもあまり意味はない。ボディと最低限のレンズは絶対的に必要であって、これは前提条件と言っても良い。問題はその後である。あなたはレンズとボディ、どちらに萌えるだろうか?

 ライカのエルマー50mmf3.5沈胴タイプのレンズを数十本も持っていらっしゃる方の話を読んだことがある。この方はもちろんライカのボディもお好きなのだそうだが、レンズの方が好きで好きでたまらないらしい。つい、手元にお金があってエルマーを見てしまうと買ってしまうのだそうだ。この人は間違いなくレンズ派であろう。
 自慢ではないが私も10本近く持っているレンズがある。FDシリーズの50mmだ。しかしこれらのレンズは、「このレンズを買おう」と思って買ったわけではなく「ボディを買おう」と思ったら勝手についてきてしまった物である。そう、私はレンズにはそれほど萌えていないらしいのである。このサイトのコンテンツを見ていただくとわかるが、レンズのページは1ページもない。手持ちのレンズを見てもNewFD300mmf2.8Lをのぞけばこれと言って有名レンズはない。この自慢の328だってはじめから328を買おうと思っていたわけではない。飛行機をとるのに300ミリクラスのレンズが欲しくなり300mmf4を探していたところ、たいして変わらない値段で328があったので「それなら」ということで買ってしまったのである。それ以外でまともな値段で買ったのはNewFD35mmf2だけ、しかしこれも外観「使用感あり」で決してきれいなレンズではない。あとは、激安かジャンクかごから探してきたレンズばかりである。
 
 写真はカメラではなくレンズで決まるとよく言われる。極端な話、同じ条件できちんと動いているカメラを使えば、NewF−1だろうがFPだろうがレンズさえ同じなら同じ写真が撮れるはずである。逆に1台のカメラであってもレンズを変えれば、写真は様々に変わってくるはずである。やはり、写真通ならレンズにこだわりたい。インターネット上だってレンズ主体のサイトはいくらでもある。標準レンズのみに絞ったサイトだってある。渋い。それに何となくカメラがどうのこうの言うよりも、レンズの話をする方が高尚なような気がする。
 一定のポリシーに従ってそろえられたレンズを見ると格好良くてため息が出てしまう。例えばマクロ。マクロ系でしっかり揃ったレンズのラインアップは美しい。撮影者の気合いが機材に感じられる。

 私は意図して同じレンズを2本以上買うことはほとんどない。同じレンズを2本持っていても「どうせ使わない」と思うのである。しかし、同じボディを2台買うことはよくある。明らかに同じボディを2台持っていてもしかたがないはずなのだが、なぜか躊躇なく手が伸びてしまう。私は間違いなくボディ派だ。
 同じレンズを何本も持っている方は個々のレンズを認識しているのだろうか?写りの違いではなく個体の違いである。私はA−1を3台持っているが、一台一台ちゃんと識別できている。シリアルの上3桁くらいはおぼえているし、どの個体をいつ分解清掃に出したかちゃんとわかっている。癖も知って一応使い分けているつもりだ。しかしレンズは全然ダメである。もしかすると手に入れてから一度も使っていない50mmレンズがあるかもしれないが、使ったことがあるかどうかさえわからないのである。
 原因のひとつは分かっている。私にはレンズによる写りの違いがよくわからない。これは致命的である。味覚の鈍い人がグルメにはなれないのと同じである。もちろん焦点距離による画角の違いくらいはわかるし、絞りによる被写界深度の違いもわかっているつもりだ。ただ、例えばNewFD50mmf1.4とf2の写りの差はわからない。開放値が明るい分シャッター速度がかせげるのでf1.4の方が好きだが、写りの違いを意識したことはない。メーカーの違いによる写りの差もほとんど気にしていない。「さすがはニッコール」とか「やはりロッコール」と言う話を聞くことがあるが、残念ながら私には、どのあたりが「さすが」で「やはり」なのかわからないのである。もしかすると同じ条件で撮影して並べて比較をすればその差がわかるのかもしれないが、普通はそんなことはしない。私は1970年代後半以降の日本製レンズなら見た目での歴然とした違いは、わからないのではないかと思っている。これって単に私が鈍いだけだろうか?

 このあいだ買ったkievにジュピターと言うレンズがついてきた。このレンズはツァイスゾナーのソ連版コピーであるという話は有名だ。試し撮りをしてみたが、斜めからの光に対し豪快なゴーストが出る以外は非常によく写るレンズだった。「おおっ、なかなか」と言う感じである。色もきれいだ。しかし、こいつがFDレンズに比べてどうか?と言うと私には何とも言えない。ジュピターは決して高いレンズではないので、これがFD以上に写ってしまうと困るのだが、しかしそれにしても絶対的によく写るレンズであることは間違いない。おそらく本物のゾナーと撮り比べても私にはわからないだろう。ジュピターは私にとっては十分すぎるほどよく写るレンズであった。しかし、私はジュピターが使いたくてカメラを買ったわけではない。kievが使いたかったのである。

 レンズの違いはさっぱりわからないがボディの違いはよくわかる。被写体や撮影の目的、その日の気分によってカメラを選べる。A−1にしようかAE−1Pを持っていこうか、はたまたAV−1はどうだろうか?と考えるのはなかなか楽しい。撮影をシミュレートして「よし、今日はこいつで行こう」と考えるのが私の場合はボディである。レンズももちろん撮影の目的によって選ぶが、そもそも選択肢があるほどレンズを持ってはいない。
 ボディの場合はA−1を持っていてもAE−1を使うことがあるし、NewF−1を持っていても旧F−1+サーボEEファインダーの出番がある。しかしレンズの場合はそうはいかない。同じ焦点距離のレンズなら使うのは明るい方のレンズばかりである。FD35mmは3本ある。f2は自分で買った。旧FDのf3.5は友達からタダでもらった。NewFDのf2.8はネイビーバージョンで、それにしては安かったので買った。しかし結局使うのはf2ばかりで他の2本はほとんど使われることがない。
 あくまで「私にとっては」の話であるが、ボディの場合はそれだけで価値があるような気がする。例えばAE−1はA−1の廉価版ではない。AE−1にはA−1にない魅力があり、それ自体が所有の対象であり、A−1を持っていてもAE−1は欲しい。それに比べて同じマウント同じ焦点距離のレンズなら、一本あれば十分である。持っていない焦点距離のレンズは欲しいと思うが、同じ焦点距離のレンズなら特別な事情がない限りは買わないと思う。あくまでボディ派なのだ私の場合は。

 さて、私の場合を紹介したわけだが、果たしてあなたはどちらであろう。レンズかボディか?「こっち」と言える人は幸せかもしれない。「両方」と言う人はたぶん底なし沼であろう。片方だけでも十分泥沼なのだから。