OMシリーズの終焉

オリンパスがOMシリーズの生産を終了することになった。まことに残念な話である。おそらくオリンパスOMシリーズのユーザーはキヤノンFDユーザーが1996年に味わった悲哀を感じていることであろう。しかし、私はあえてOMユーザーの皆様に申し上げたい。

「心配は要らない、われわれはまだFDシリーズを使っている。」

しかしオリンパスの場合はキヤノンより事情は深刻かもしれない。ご承知の通りオリンパスは、オートフォーカス一眼レフカメラをラインナップしていない。とどのつまりOMシリーズの生産を終了すると言うことは一眼レフ市場からの完全撤退を意味する。ちょうど1980年代前半のコニカやフジカ、マミヤやチノンと同じような状況である。もしかするとトプコンのようになるかもしれない。ミランダやペトリにはならないであろう。その点キヤノンFDユーザーにとってはEOSがあったので若干は安心だった。そのあたり、OMユーザーの皆様の不安は大きいのではないかと推察する。しかし、私はあえてOMユーザーの皆様に申し上げたい。

「心配は要らない。EOSがあってもFDシリーズユーザーには何のメリットもなかった。だって、アクセサリーに互換性も何もないんだもの」

 あとはメーカーの心意気次第である。幸いキヤノンはなんだかんだ言いながら、古いカメラの面倒もしっかり見てくれる。シャッター鳴きだって、修理不能になる心配は全くない(お金はかかるが)。オリンパスだって今までどおりのサービス体制を約束している。これは本当に立派なことだと思う。一応OM−1、−10のユーザーである私にとってこれ以上心強いことはない。しかし1980年代前半に5大メーカーと言われた会社の中で、新製品の市場から完全に消えてしまったマウントと言うのはキヤノンFDとオリンパスOMマウントだけである。これはやはり悲しい。

 キヤノンがF−1とFDレンズの生産を完全に打ち切ったとき、それはそれはユーザーから不満の声があがった。NiftyのSCANONでは、担当者がかわいそうになるくらい非難轟々であった。そのとき、キヤノンの担当者がしきりに訴えていた生産中止の理由が治具の消耗であった。実際のところはわからないが、担当者によると「治具が消耗しF−1を定められた精度で製品化できなくなる可能性が強くなったため生産を終了することにした」そうであった。本当だろうか?しかし、1996年の時点ではEOSの方が圧倒的に売れていたであろうから、治具の消耗は渡りに船であったかもしれない。人気商品を打ち切るタイミングは難しい。ましてやプロ用のF−1ならなおさらだ。治具を再生産すればもちろん生産の継続は可能であったろうが、投資をするだけの売上が見込めなければ、もはや生産を終了するしかないだろう。
 もうひとつ問題になるのがチップの供給らしい。カメラに使われているチップはそのカメラが製品化されたときのものである。初期のF−1なら1981年の物が使われていたはずである。しかしチップは日進月歩、すぐに調達困難になる。覚えていらっしゃるだろうか?10年前の最新式CPUは386SXである。もちろんカメラが売れてさえいれば新しいチップを探して、回路を再設計しても採算が取れるだろう。実際そういうマイナーチェンジは行われているらしい。しかし、もはや爆発的な売れ行きが望めなくなった場合、回路の再設計という大きな投資は出来ないであろう。F−1にせよOM−4にせよ、これ以上値段は上げられないところまで来ていた。

 聞くところによると昨年のOMシリーズの売上は5000台未満らしい。真剣にラインを動かせば数日で作ってしまえる数である。これではやはり商売にならないであろう。しかし、昨年の売上を憂うよりも、そこまで生産を継続したことが何より驚嘆すべきことである。私はそこにオリンパスの意地があったと思う。商売を考えればもっと早く生産を終了しても良かったはずである。レンズ固定の一眼レフやコンパクトカメラは順調である。デジカメも悪くはなかった。何も、OMシリーズに固執する必要はない。キヤノンがFDシリーズの生産を終了したあとであれば、それほどの非難もなかったであろう。しかし、一眼レフメーカーとしての意地がそこにあったのではないかと思うのである。まるでホセ・メンドーサと最後まで戦って真っ白くなった矢吹ジョーを彷彿とさせる。

「あっぱれ、オリンパス」

 OMシリーズの終焉は、マニュアルフォーカスカメラの行方を象徴しているのかもしれないと思う。私が日本を離れた2000年の初頭はまだ、市場にマニュアルフォーカスのカメラがあふれていた。ニコンF3も現役だったし、ミノルタはX700を作っていた。ペンタックスLXに至っては記念モデルの話で盛り上がっていた。OMー4をも含めて、キヤノン以外のメーカーはマニュアルフォーカスをしっかり残していた。しかしこれらの機種はここ2年で姿を消してしまった。ニコンがFM3Aを出して、まだまだマニュアルフォーカスにこだわる姿勢を見せたがそれ以外のメーカーは徐々にマニュアルフォーカスに幕を下ろしつつある。コンタックスやリコーにはまだマニュアルフォーカス機があるが、コンタックスは徐々にオートフォーカス化しつつあり、リコーも新製品を出す気配は見られない。一時期各社ともコシナのOEM機を揃えていたが、当のコシナもフォクトレンダーシリーズの大当たりで、OEMでカメラを売る必要性が薄れているのではないかと思う。コンパクトカメラと違い一眼レフはある程度のレンズやアクセサリーを製造し続けなければならないので、製品を残すのは難しい。ミノルタのMDレンズは国内ではX700のために存在していたようなものだ。

 マニュアルフォーカスのカメラが悪いわけではないし、今でも一定数のユーザーはいる(含む自分)。しかし今から新規に写真を始める人に、マニュアルフォーカスのカメラを勧める理由は残念ながらあまり見あたらない。この辺りは車のオートマ、マニュアルに似ている。確かに実際マニュアルフォーカスで十分な場面は多いし、マニュアルの方がいいこともある。しかし、多くの場合オートフォーカスはマニュアルフォーカスより便利であり、時代が進むに従って、その便利さは向上している。
 マニュアルフォーカスで十分な人にとってはオートフォーカスはなくてもいい機能だと思う。余計な機能にお金を払う必要はない。ところが、オートフォーカスカメラも量産効果から低価格化が進み、現在のところマニュアルフォーカスカメラに値段的なアドバンテージはなくなっている。X370がボディ\50,000、α-Sweetが\58,000。そのカタログ上の性能は比べるまでもなく、新たにカメラを購入する人にX370を勧める理由はどこにもないと言っていいだろう。このようなバックグラウンドがあれば、マニュアルフォーカスカメラが衰退していっても仕方がないかもしれない。

 今、金属製のフルメカニカルマニュアルカメラが中古市場でしか手に入らないのと同じように、マニュアルフォーカスの一眼レフも中古でしか手に入らなくなるかもしれない。FDユーザーにとっては6年前からの話であり別段驚くこともないが、その日が来るのも遠くないかもしれない。






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