F−1+サーボEEファインダー+モードラMF使用記

私がこの組み合わせのF−1を手に入れたのが1ヶ月前のデンバーカメラショーでした。「今さらこんなの買ってどうするんだ!」と言う自分の心の中の良心に打ち勝って衝動買いした組み合わせです。

1.そもそもどんなカメラか
 今さら言うまでもないかもしれませんが、一応F−1+サーボEEファインダー+モードラMFについて簡単に説明いたします。
 キヤノンF−1は1970年に発売されたキヤノンのプロ用フラッグシップです。それまでプロ用の一眼レフと言えばニコンFの独壇場だったところにまさになぐり込みをかけた野心作です。それはそれは素晴らしい一眼レフで私がA−1を使っていた頃のキヤノン一眼レフラインアップの最高峰として君臨していました。その当時はカメラショーでしか触れない、畏れ多い存在でした。このF−1、本体だけでは追針式のマニュアルです。当時は「プロはマニュアル露出が当たり前、オート何ざぁ素人のためのもの」と言う風潮があったようで、プロ用のF−1は当然マニュアル一本やりでした。しかし、世の中にはオートの方が便利な場面もあり、オートを必要とするプロもいました。そこでかどうかわかりませんが、F−1にはオプションでシャッター速度優先AEの道が作られていました。それがサーボEEファインダーです。
 F−1は用途によってファインダーが交換できるのですが、その中にこのサーボEEファインダーがラインアップされていました。このファインダー、見るからに「ただ者ではない」スタイルです。この中にサーボモーター、トランジスタ19個、ダイオード7個、可変抵抗5個、抵抗31個、コンデンサ9個が入っています。今ならICチップ一枚でしょう。その電子回路で露出を演算し(そんなたいそうなことではないでしょう)、シャッター速度に対応する絞り値を出力します。マウント内に絞りをコントロールするレバーがあれば話が早かったのですが、プロ用のF−1には、そのような軟弱な物は付いていません。仕方がないのでサーボEEファインダーからレンズのマウント部分までアームを使って出力された絞り値を伝えているのです。NewF−1がきわめてスマートにシャッター速度優先AEを実現できるのとは対照的です。この方法はいかにも後から取って付けたような感じですが、F−1にははじめからサーボEEファインダー用の小窓が付いていますので、最初から想定していた方法なのでしょう。この辺りのセンスはさすが「1970年代初頭」と言う感じです。
 さて、サーボEEファインダーはサーボモーターを内蔵していますので当然電源が必要です。F−1本体の電源は1.35Vの水銀電池ですから全然足りません。必然的に外部電源が必要です。サーボEEファインダーには専用の外部電源があり、腰にぶら下げてスパイラルコードでファインダーに電力を供給します。しかし、これはあまりに格好が悪いし、いかにも使いにくそうです。AE野郎の私でもこの方法はいただけません。
 そこでモータードライブMFの登場になるのですが、モータードライブMFからサーボEEファインダーに直接電力が供給できるのです。つまりこの組み合わせになれば、腰からスパイラルコードがでることもなくスマートにシャッター速度優先AE仕様のF−1が出来上がるというわけです。
 このカメラの実用性ですが、1970年から75年までは十分実用価値があったと思います。曲がりなりにもシャッター速度優先AEと秒間3.5コマの連写を実現できるカメラは他にありませんでした。1972年には札幌オリンピックありましたから、現場で活躍していたかもしれません。しかし、1976年にAE−1が発売になりパワーワインダーとの組み合わせが一般化した頃から雲行きが怪しくなりA−1+モータードライブMAの組み合わせの登場によりカタログ上のアドバンテージは全くなくなりました。F−1自体の価値は全く別問題ですが、サーボEEファインダーはこの時点でその役割を終えたと見るのが妥当でしょう。レンズなしでも2kgを超える重量でシャッター速度優先AEと秒間3.5コマではAシリーズの方がはるかに実用的です。
 そもそも、サーボEEファインダーは受光素子にCDSを使用していますから、光に対する反応はSPCほど早くはありません。モータードライブのスイッチを入れサーボEEファインダーをLモードにするとファインダーが測光を開始します。「ジーコ、ジーコ」と音を立てながら動くさまは微笑ましいのですが、お世辞にも迅速な動きとは言えません。A−1のデジタル表示慣れた目にはいかにも緩慢な動きです。「本当にこれで大丈夫かいな?」

2.実用試験
 持っているカメラは使わなければ意味がありません。私はこのサーボEEファインダー・モータードライブMF付きF−1を使ってみることにしました。しかしこの組み合わせて風景をとっても仕方ありません。動きがある被写体と言うことで、はじめは身近なところから、フリスビーをしている娘を撮影してみました。なかなかいい感じです。レンズはNewFD70〜210mmf4です。結構使えそうな感じです。


3.本番
 せっかくのモードラ付きですので、やはりスポーツで使わなければその真価を発揮できないでしょう。と言うわけで本格的なスポーツ、アメリカンフットボールの撮影に使ってみることにしました。レンズはNewFD300mmf2.8。うちのエースです。レンズの重量が2.3kgですから合わせて4.5kgです。自衛隊で使っている64式小銃より重いです。試合は空軍士官学校vs陸軍士官学校、伝統の一戦でした。アフガニスタンでは本当の米陸軍、米空軍がテロリストを相手に戦っているのに、こんなところで内輪もめをしていていいんですか?と言う疑問はとりあえず置いておいて、撮影に専念します。総重量はありますが300mmとのバランスは抜群です。レンズに振られるようなことはありません。しっかりホールドすれば手持ちで十分いけます。そもそもフットボール上の観客席は狭いので三脚を広げているスペースはありません。席がアルプススタンド中段でしたので、大迫力の写真にはなりませんでしたがそこそこ撮れたと思います。作例はこちらをご覧ください。ネガカラーでしたから微妙な露出の精度については何とも言えませんが、とりあえず十分実用になるレベルだと思います。光線の状態がめまぐるしく変わる状況ならともかく、普通の環境であれば露出に関してサーボEEファインダーで問題になることは多分無いでしょう。

4.感想
 撮影が終わっての感想ですが、やはり4.5kgは重いです。座って撮影していたのですが、レンズを持っていた左手が痛くなりました。同じスタジアムで、NewF−1+ワインダーで撮影したことがありますが、ここまでではなかったような気がします。さて、それでは実用になるかという問題ですが、露出も含めて問題なさそうです。余程シビアな状況でなければサーボEEファインダーでも十分です。問題は重量とその大きさですが、これは我慢すればいい話です。それよりも何よりもこのカメラは撮影をしていて気持ちのいいカメラでした。あまり人が持っていないカメラで写真を撮るという感覚は何にも代え難い魅力があります。かのサンダー平山氏もそう言っています。300mmを装着したサーボEEファインダー付きF−1はスタンドでも相当注目を浴びました。
 サーボEEファインダーは今となっては入手も難しく、故障して修理不能の個体が多いようです。また、完動品でアクセサリーもそれっていれば結構な値段になることも多いようです。私の場合は「ふざけるな!」と言われそうなくらい安かったので、何も言うことはないのですが、これにいくらまで出すかは個人の価値観の問題でしょう。ただ、これだけは言えます。サーボEEファインダーは十分使えます。そして使って楽しいカメラです。






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