タダでカメラを手に入れる?

 いろいろな方のウェブサイトを見ていると、カメラをタダで手に入れた話が載っています。曰く、「会社の戸棚のなかからでてきた」「実家を掃除していたらでてきた」「知り合いや友達にいただいた」。なんと素晴らしい話でしょう。こんなことが頻繁に起きたら「世の中は自分のために廻っている」なんて大きな勘違いをしてしまうことでしょう。なかには「カメラは買う物ではない、もらう物だ」と豪語される方もいらっしゃいます。うらやましい限りです。

 経験者の話を総合するとまず何より自分の趣味がカメラの収集であり、古いカメラを集めていることを、自分の周りに認知させることが大切なのだそうです。カメラというのもは、一般的にそう何台も必要な物ではありません。カメラの興味のない人にとっては、単なる写真を撮る道具です。EOSKissIIIを買えばそれまで使っていたキヤノンAV−1はいらなくなります。新しい19インチのディスプレーを買ったら15インチのディスプレーがいらなくなるのと同じようなものです。そこで一般の人は古いカメラを処分するわけですが、古いカメラを中古として売るのは普段から中古カメラ屋さんに出入りしている人でもなければ結構面倒くさい話です。いざ、売りに行ってもたいていの場合大した金額にはなりません。「それなら、いっそ、あのBISON君とやらにあげようじゃないか、そうすれば少しは忠誠心も上がって、普段の態度も改善されるかもしれないし。」と言う風になればしめたものです。
 私が日本にいたときの話ですが、お正月に銀座のモノショップに行き1万円也の福袋を買いました。機械式の時計が入っていてラッキーだったのですが、その中にベレッタのホログラムが入っていました。私は拳銃には興味がありません。しばらく部屋の隅にあったのですが、「じゃまだ」と言う非難に屈し処分することにしました。捨てるのはもったいないので銃器マニアの後輩にあげることにしました。後輩は「本当にタダでいただいていいんですか?」をしつこく繰り返します。「いやあ俺も信用無いなぁ、、」と思って苦笑いをしていました。最後に「それでは、ありがたくいただきます。これ3万円以上するんです」「えっ?」
 物の価値がわからないと言うのはあるときは幸せです。まあ、これで後輩の忠誠心が「5」はあがったでしょうから良しとしましょう。

 と言うわけで私も「カメラが趣味で古いカメラを集めている」と言うことを周りに認知していただけるよう努力しました。一年目は何も起こりませんでしたが、二年目にはいると少しずつカメラやレンズが集まってきました。「ひょっとして世界は自分を中心に廻っているのではないか」と言う気持ちになってきました。はじめに来たのがキャノネットQL17でした。カメラ好きの友達からで、キヤノン製の古いレンジファインダーレンズシャッターカメラです。試しに撮影してみましたが、これが素晴らしい写りです。私がレンズシャッター機を見直すきっかけになったカメラです。引き続いて同じ友達から旧FD35mmf3.5をもらいました。この友達は独身で、「つい訳もなく物を買ってしまう」という素晴らしい習性に持ち主で、買ったけど飽きた物を引き受けさせていただいたわけです。次は先輩から一眼レフをもらいました。何だかどんどんもらう物が良くなっていきます。いただいたカメラはペンタックスSF7と標準系のズームです。今、私が所有しているカメラでまともに使える唯一のオートフォーカス一眼レフです。オートフォーカス初期のカメラですが、私のようなファミリーカメラマンには十分な性能です。ただ、オートフォーカスとワインダーの作動音がものすごいのですが、これはオイル切れでしょうか?それとも仕様なのでしょうか?

 しかし、普及機とはいえ一眼レフがタダで手に入ってしまいました。「このまま行けばNewF−1がタダで手に入る日も遠くないかもしれない。」私はすっかり図に乗っていました。しかし、やはりカメラの神様は存在するようで、謙虚さを無くした私にカメラの神様はそれ以上は微笑まず、そのまま日本を離れアメリカに行くことになりました。

 アメリカに来てから最初の1年は、英語能力の限界から周りに自分の趣味がカメラであることをさりげなく伝えることができませんでした。渡米後1年を経て、私が旧F−1を職場に持っていったことから、ようやく私の趣味がカメラであることを認知していただけました。

 しばらくしてまたカメラの神様が私に微笑みます。
 「YOSHI(私のことです)!デジタルビデオを持っていないか?」私の同僚がいきなりやってきました。話を聞くと視聴者参加のテレビ番組に応募するためのプロモーションビデオを作りたいので、協力して欲しいと言うことらしいのです。「サバイバー」と言う番組に応募するそうで、とりあえず3分間のプロフィールビデオを作ることになり、私はカメラマン兼アレンジャーを命ぜられました。ご褒美はカメラ。どうせVivitarのコンパクトカメラかなんかだろうと思っていたら、なんと彼は「ローライ35B」と「ミ

ノックスEC」を持って来ました。嘘のような話です。ローライとミノックス。どちらも「安く節操なく」の私にとっては未知の経験です。ちなみに、アメリカではローライとは発音せずローリィと発音します。私はカメラに目がくらみ、寸暇を惜しんでビデオ編集をして彼に尽くしました。こんなおいしい話は滅多にないでしょう。
 ビデオのコンセプトは、あるテレビ番組のオープニングシーンをキャプチャーし、その上に私の同僚の実写ビデオを差し込んで行くというパロディものです。テレビのオープニングをTVチューナーカード経由でハードディスクにキャプチャーして、彼の動画をデジタルビデオで細切れに撮影し、パソコン上ではめ込みます。はっきり言ってデジタルビデオとパソコンがなければ不可能な作業でした。

 ビデオ自体は大変うまくいきました。彼は無事、書類審査・ビデオ審査を通過し、面接で落ちました。これは私のせいではありません。とにもかくにも、私は2台の貴重なカメラを手に入れたのでした。彼はコンタックスG2を買ったので古いカメラはいらなくなったのだそうです。

 と言うわけで、私の経験から。カメラはそれが趣味の人以外にとっては、ただの道具です。ぜひ、自分の趣味がカメラであることを声を大にして明言し、受け皿を作っておきましょう。カメラの神様はきっと微笑んでくれます。













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