やはり今年もAシリーズ

今回はちょっと語り口を変えていきます。

 私のオフィスエリアには当然ながらコピーマシンがある。このコピーマシンが年末に更新された。ミノルタのマシンからゼロックスになった。新しいマシンは本当の最新式で、ボタンではなく液晶タッチスクリーンで機能を選んで使う。色々スーパーな機能が付いているようなのだが、まあ私にとっては不要なものが多く、最低限、拡大縮小が出来て、ソートが出来て、両面コピーが出来れば文句はない。実際私のような人が多いのではないかと思う。
 さて、今朝私は新しいコピー機を使う羽目に陥った。羽目に陥ったと言うからにはあまり良い経験ではなかったのである。学生の受講変更の用紙をコピーする必要があったので、新しいコピーマシンと向かい合うことになってしまった。ちょっと切り貼りしたため普通の長方形ではない紙になってしまったのだが、私の計画ではコピーすればきれいに仕上がるはずだった。ところである。この最新式のコピーマシン君は、長方形でない紙の形を勝手に認識して、5度くらい傾けてコピーしてくれるのだ。初めは原紙を傾けてセットしたのかと思って確認してしまった。さあ、困った。こっちはただ1枚、普通にコピーしたいだけである。逆にずらしてみたが、無駄だった。なんとかしてこの余計でお節介な機能をオフにしなければならないのだが、そんなスイッチどこにも見あたらない。液晶スクリーンをタッチしながら当該機能を探さなければならないのだが、そもそもこいつがどういう名前の機能なのか皆目見当がつかない。どこの区分に入っている機能なのだろう?しかも、スクリーンには英語の説明しか出てこない(当たり前だ)。結局ただの1枚、コピーを取るのに30分もかかってしまった。
 もろにハイテク音痴で恥ずかしい話であるが、実際よくある話だと思う。私だってマニュアルを読めばちゃんと理解は出来るし、2時間マニュアルとコピーマシンに付きっ切りになれば、多分新しいコピーのエキスパートになれると思う。しかし今回、私がしたかったのはたった1枚普通にコピーを取ることだけだったのだ。

 レバーとダイヤルによる操作系というのは一見してわかりやすく、間違いが少ない優れた方法であると思う。何の機能か忘れてもダイヤルに書いてある数字を見れば何のダイヤルか大体想像がつく。想像が付けば、経験を元にして何とか使える物だ。コンタックスのカメラはなぜかシャッターボタンの横にASA感度の切り替えダイヤルがあり、巻き戻しクランクの周囲にシャッターダイヤルがある。普通のカメラに慣れた人にとっては最初はとまどうらしい。幸い私はお金が無くて比較的新しいコンタックスは持っていないが、想像しただけでも十分とまどえる。しかし、ダイヤルに25 50 100 200 400 800 1600と書いてあればこれは何のダイヤルかすぐわかる。同様に1 2 4 8 15 30 60 125 250 500 1000とあれば、これがテレビのチャンネルだと思う人はいないであろう。私の愛機A−1も軍艦部で絞りをコントロールするというブラボーな構造になっているが、ダイヤルに絞り値しか出てこないから、実際に間違うことも戸惑うこともはなかった。ところが液晶ディスプレーに30と言う数字だけが出ていたらこれはどうだろう。これではシャッター速度なのか、ASA感度なのか、それとも残りのコマ数なのか見当がつかない。まあ実際、唐突にディスプレーに30と言う数字だけが出ることはないが、それにしてもダイヤルとレバーの使いやすさはボタンとデジタルディスプレーがどんなに頑張っても達成できない領域にあると思う。
 1980年代後半から90年代にかけてカメラからダイヤルとレバーが消えかけた時期があった。幸いキヤノンにはA−1→T90と受け継がれた電子ダイヤルがあったのでキヤノンの一眼レフカメラからダイヤルが完全に消えることはほとんどなかったが(実際には少しある)、他のメーカーのカメラの中には完全にレバーとダイヤルが消えた物もいくつもあった。経験した人はわかると思うが、これはメーカーの嫌がらせではないかと疑いたくなるくらい使いにくい。私がかつて使ていったEOS630は一応電子ダイヤルがついてはいるが、モードを切り替えるためにはモードボタンを押しながら電子ダイヤルを回す、露出補正をするためにはまた別のボタンを押しながら電子ダイヤルを回す、と言う冗長な操作を要求した。これは実に面倒くさかった。どのボタンを押すとどうなるかを覚える必要があるが、これが一見してわかるようにはなっていない。また物によってはボタンを二つ押しながら、と言う操作もある。結局モードを切り替える操作くらいしか使わなかった記憶がある。露出補正すらあまり使わなかった、と言うか使えなかった。
 ボタンの長所はなんと言ってもスペースを喰わないと言う点に尽きる。2進数で行けば4つのボタンで16通りの入力が出来る。ボタンを押すごとに機能が変わるようにすれば無限の機能をボタンひとつでコントロールできるだろう。腕時計ならそれも良い。時間は毎日あわせるものでもない。しかしカメラはどうだろう。シャッター速度や絞りは場合によってはシャッターを押すごとに切り替えるし、露出補正も頻繁に使うであろう。これらの操作をボタンとダイヤルの組み合わせで行おうとすることにはやはり無理があるのでは無かろうか。
 キヤノンはその後EOS−1からサブ電子ダイヤルを設けて、操作性が格段に向上したと言われている。と言うことはEOS−1以前のEOSはやはり操作が煩雑だったのだ。しかし、私はEOS−1以降のちゃんとした一眼レフをまともに使ったことがないのでどれくらい使いやすくなったのかを知らない。なぜ、EOS−1に突き進まなかったか?A−1に戻ってきてしまったからである。あそこでEOS−1に突き進んでいたら、あるいは私のカメラ人生は大きく変わっていたかもしれない。まず、これほど数多くのカメラに囲まれて生活はしていなかっただろう。EOS−1一式を揃える値段で、私の手元にあるカメラのほとんどすべてを買うことが出来ると思う。私の在庫はその程度のものだ。あっ、NewFD300mmf2.8LとNewF−1だけはちょっと特別扱い。

 カメラの進歩というのは便利さの追求だった。ロールフィルムがなかった1900年以前のカメラは、とても庶民が趣味で楽しむような物ではなかったらしい。それが、ロールフィルムが出来、パトローネに入り、距離計が付き、一眼レフになり、露出計が付き、TTLになり、AEになった。そのうちオートフォーカスにまで発展した。これはすべて便利さと機能性の追求に他ならない。この進歩はある時期まで使いやすさの追求と同じ方向性を持っていた。しかし、ある時期から使いやすさと多機能が同じ路線上になくなってしまった。時代背景もあり日本のカメラメーカーはとりあえず使いやすさよりも多機能なカメラを優先して作り続けたように思う。ここ5年ほどの間にオートフォーカス一眼レフはずいぶん使いやすくなったと思う。多機能一本やりから、使いやすさに徐々に方向転換したのだろう。少なくともEOS630とKissIIIはカタログ上の性能はほとんど同じであるが、KissIIIの方が使いやすいと私は思う。

 さて、ここにキヤノンAシリーズがある。私の個人的意見であるが、Aシリーズは多機能さと使いやすさのバランスがもっともよくとれている時期の製品であると思う。最も多機能なA−1であっても、使わない機能というのはほとんどない。頻度の差こそあれ、私はほとんどすべての機能を使って来たと思っている。さらに、「こんな機能があればなあ」無い物ねだりをしたこともほとんどない。思ったのは、ストロボのTTL調光くらいである(最近は1/1000秒の最高速シャッター速度もやや物足りないと思うが)。これは素晴らしいことである。その証拠に使いやすくなりつつある最近のオートフォーカス一眼レフのコンセプトは、A−1のそれに近い。つまり、モードセレクターダイヤル+電子ダイヤルの組み合わせである。

 やっぱりA−1だね!と言う結論が出ましたね。めでたしめでたしです。

 と言うわけで私は今年もAシリーズの啓蒙活動を力の限り続けて行きます。どうぞよろしくお願いいたします。






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